弐
第2話
「なんで私じゃなかったの?あの瞬間に戻りたい」
うずくまるように横断歩道の脇に花束を供える女の姿が合った。
立ち上がった女の顔には涙が流れていた。
「どうぞ良かったら」
女の横からそっと白いハンカチが差し出された。
女は驚いたように横を向いた。
そこには、着物姿にカンカン帽をかぶった男がいた。
「ここで、大きな事故があったんですよね。トラックに男性が轢かれて即死だったとか・・・・・・ご愁傷さまです」
女は差し出されたハンカチを受け取ることなく目を見開いた。
「あの時、私が遅れてこなければ・・・・・・」
「戻れるなら戻りたい?代われるものなら代わりたいですか?」
事故の日からずっと願ったことだったが、そんなことは出来ないことぐらい知っている。女は自嘲気味に笑う。
「残酷なこと聞くのね。できるならそうしたい」
男はニヤリと笑う。いつの間にか道路を走る車も、道を歩く人も消えていた。
ただあるのは、風呂敷の上にガラクタを広げている着物姿の男と女だけ。
「お客様にぴったりの商品がありますよ」
一枚の古い小さな紙を女に渡す。
女が受け取って紙を見ると、古い電車の切符。
日付はXX.-8.31。事故のあった日。
ふざけているにしろ趣味が悪い。
「この切符を使えば、その日に戻れるの?それならきっと、とても高いんでしょうね」
「お金は結構ですよ」
女は趣味の悪さに顔を歪め皮肉を言ったが、お金を請求しない男。悪ふざけに乗るのも一興かと付き合うことにした。
「それならお願いするわ」
「そうでした大事なことを言い忘れてました。その切符は片道だけですが、よろしいですか?」
「片道切符。私にぴったりだわ」
大切な彼の居なくなった世界に未練はない。
女は着物姿の男に切符を見せる。
「そうですか・・・・・・それではいい旅を」
男は袖から改札鋏みを取り出すと、女の持っている切符をカシャンと挟んだ。
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