第2話 鳥取砂丘で寝転んだ日

今年のバス旅行の行き先は、鳥取砂丘だった。姫路からバスで向かう途中、窓の外に広がる山や川の景色が少しずつ変わっていくのを眺めながら、今日の旅に思いを馳せた。砂丘と聞いて最初は、何をすればいいのか分からなかったが、今回の旅はいつも以上に心の余裕を持って楽しむことを意識した。


鳥取に到着して、まず立ち寄ったのはラーメン屋さん。香ばしいスープともちもちの麺、そして地元の食材を使ったトッピングが印象的で、お腹も心も満たされた。食後の満足感と共に、これから訪れる砂丘への期待が少しずつ膨らんでいく。


砂丘に着くと、その広大さに圧倒された。どこまでも続く砂の海、波打つようにうねる砂の丘、その先には青い空と日本海が広がっている。見渡す限りの景色に、僕はただ立ち尽くすしかなかった。砂丘の入口からゆっくりと歩き始める。足を一歩進めるごとに、砂の感触が靴を通じて伝わってくる。砂は思ったよりも柔らかく、サラサラとしていて歩きやすい。少し汗ばむ陽気だったが、風が時折心地よく頬を撫で、暑さを和らげてくれる。


観光客の集まるエリアを避け、少し静かな場所まで足を運んだ。誰もいない砂丘の一角にたどり着くと、僕は思い切って寝転がることにした。仰向けになって空を見上げると、澄んだ青空が広がり、ぽつんと浮かぶ白い雲が静かに流れていく。空の広さを全身で感じながら、ただ無心にその光景を見つめた。


砂の上に体を委ねると、まるで大地に包まれているような安心感があった。風に吹かれて少しずつ形を変える砂の感触が、心地よく背中に伝わる。日差しが強く、少し暑いと感じたけれど、砂の冷たさとバランスが取れていて、思いのほか快適だった。こんな風に大の字になって空を見上げるなんて、いつ以来だろうか。普段の生活では、こんなにゆったりとした時間を持つことはない。仕事や日常の些細な悩みから解放されたひととき、僕はただ、空と風と砂の感覚に身を委ねた。


周りを見渡すと、遠くでパラグライダーを楽しむ人たちが、小さな点のように見えた。空を舞う彼らの姿は自由そのもので、見ているだけで爽快な気分になった。また、丘の上から海を見下ろす人々や、ラクダに乗って砂丘を行き交う観光客の姿も、どこかのどかで、平和な光景だった。人それぞれが、自分の楽しみ方を見つけている様子が微笑ましかった。


しばらくして、僕はふと川柳を書きたくなった。手帳を取り出し、今感じていることを五七五にまとめてみる。


「砂の海

寝転び見上ぐ

青き空」


寝転がりながら思いついた言葉を、砂丘の風景と共に綴る。こんな風に感覚を言葉にすることは、いつもとは違う旅の楽しみ方かもしれない。普段の生活では、なかなか詩を詠む機会もないけれど、この静かな砂丘の中で、ゆったりとした気持ちで言葉を紡ぐことができた。


特に観光地を巡ることはせず、ただゆっくりと砂丘の中で過ごす一日。人々の動きを観察し、空を見上げ、心の中に浮かぶ思いを感じ取る。何も急ぐことはない。ただ、今ここにいることを楽しむ。そんな一日があってもいいのだと、自分に言い聞かせた。


夕方、バスに戻ると、疲れはあったけれど、心はとても穏やかだった。こんな風に、自分のペースで旅を楽しむことができるなんて思ってもいなかった。来年のバス旅行も、自分なりの楽しみ方を見つけられたらいいなと思いつつ、心地よい疲れを感じながら、眠りについた。

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