全てが新鮮?作業所バス旅行

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 嵐山と金閣寺観光

今年のバス旅行は、京都の嵐山と金閣寺。普段、観光地の人混みや初めての場所に足を運ぶことは、僕にとっては大きな挑戦だ。就労継続支援B型事業所のレクリエーションである年に一度のバス旅行は、試練と楽しみが入り混じった特別な日。


観光バスは、朝早く姫路を出発し、一路京都へ。車内ではガイドさんが名所の説明をしてくれるが、僕は緊張してそれどころではなかった。今回、事業所のスタッフがランチの予約をしてくれていたのは、ビュッフェ形式のお店。これは少し安心できるポイントだった。好きなものを好きなだけ取れるビュッフェは、僕のように偏食や緊張で食欲が左右されやすい人間にはありがたい選択だ。


お店に到着し、料理が並ぶカウンターを前にすると、一瞬だけ緊張が和らいだ。和食から洋食、デザートまで、多彩なメニューに心が躍る。苦手な食材が入っていないものを選んで、好きなだけ皿に盛った。新鮮なサラダ、香ばしい焼き魚、ふわふわのオムレツ。そして、少しだけ勇気を出して普段は食べないメニューにも手を伸ばす。食事中は、周囲のことも人混みも忘れ、ただ目の前の美味しい料理に集中できた。短い時間だったが、心から楽しいと思えた瞬間だった。


昼食後の自由行動では、嵐山の竹林を散策した。細くまっすぐに伸びる竹が、空に向かって並ぶ様子は圧巻だった。心が静まり、自然の中にいるという実感が湧いた。ここでは人の波も途切れ、少しだけ落ち着いた気持ちで歩くことができた。日常の慌ただしさや心配事を忘れて、緑に包まれる時間は僕にとって特別だ。深呼吸をして、竹林の中をゆっくりと進む。何かを急ぐわけでもなく、ただ自然の中を歩くことが心地よい。


その後、金閣寺へと向かう。金閣寺は、ガイドブックで見たことはあっても、実際に訪れるのは初めて。観光客で賑わっていて、少し息苦しくも感じたが、黄金に輝く建物を目にした瞬間、思わず息をのんだ。その美しさは、写真や映像では伝わらない迫力があった。光り輝くその姿は、まるで幻想の中にいるかのように僕を惹きつけた。建物が池に映り込む様子もまた美しく、しばらくの間、見入ってしまった。


さらに、お守りを買うために神社にも立ち寄った。家族の健康を願い、両親と自分にそれぞれのお守りを選んだ。いつもは言葉にできないけれど、こうして形に残るもので気持ちを伝えられるのは嬉しい。ふと、親に渡したときの反応を想像して、少し心が温かくなった。


観光を終え、嵐山の大きな橋の袂でしばし休憩。川の流れを眺めながら、持参したスケッチブックを開いた。訪れた場所の風景や、感じたことを絵に残しておきたくて、思い出の一つ一つを描いた。ゆっくりと筆を進めながら、今日の出来事を振り返る。人混みでドキドキしながらも、ランチや自然の中でホッとした瞬間、金閣寺の圧倒的な存在感、家族を思って買ったお守り。そして、こうして絵を描いている穏やかな時間。振り返ると、どれもかけがえのない思い出になっている。


夕方、バスは再び姫路へと向かう。疲れもあって、車内では少し眠ってしまったけれど、頭の中には今日の風景がまだ鮮やかに残っている。苦手なことが多い僕でも、少しずつ外の世界を楽しむことができるようになってきた。来年はどんな場所に行くのだろう。次の旅が少し楽しみになってきた自分に、驚きと喜びを感じながら、帰路についた。

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