第4話 午前中の新しい風景
午前中の事業所に通うようになってから、少しずつ新しい発見が増えてきた。これまでは午後からの通所だったため、午前中の事業所の雰囲気をほとんど知らなかった。思ったよりも穏やかで、どこか落ち着いた空気が流れているのが印象的だった。
ある日、いつも通りに事業所に着くと、窓から柔らかな朝の日差しが差し込み、机の上を静かに照らしていた。部屋の奥から聞こえてくる利用者同士の笑い声と、職員さんが談笑する声が心地よく響いていた。午後の時間帯とはまた違った和やかさがあって、少しほっとするような気持ちになった。
その日の午前中の仕事は、手芸を使ったオリジナルグッズの制作だった。布や糸、ボタンなど、様々な素材を使って小さな人形やアクセサリーを作る仕事だ。僕にとって、手芸は決して得意な作業ではなかったけれど、集中して取り組めるという意味では、ひとりで完結する作業と似ているところがあり、案外楽しく感じることができた。
まずは、布を型紙通りに切り取ることから始めた。ハサミの切れ味や布の質感を確かめながら、一枚一枚丁寧に形を整えていく。思ったよりも手間がかかり、少しずつ指が疲れてきたけれど、それでもどこか心地よい作業だった。
「みっちゃん、上手にできてるね」と、職員さんが声をかけてくれた。シンプルな一言だったけれど、それだけで嬉しい気持ちになった。布を糸で縫い合わせ、ボタンをつける作業も、時間を忘れて没頭することができた。少しずつ形になっていくのを見ると、達成感が湧いてくる。
仕事をしながらふと窓の外を見ると、青空に白い雲がぽっかりと浮かんでいた。いつもは午後の景色しか見ていなかったけれど、午前中の光の中で見る外の景色は、また違った美しさがあった。少しひんやりとした空気が頬に心地よく、どこか新しい一日を迎えたような気持ちになる。
午前中に通うようになってから、体力的には少ししんどいこともある。でも、新しい時間帯で過ごすことで、今まで気づかなかった事業所の一面や、利用者の方々との新しい交流が生まれていることが嬉しい。例えば、午前中だけ来ている利用者さんと話す機会が増えたり、昼食前にちょっとした雑談をしたりすることで、今まで以上に事業所が自分にとって身近な場所になっているのを感じる。
昼休憩の時間には、いつもと同じようにみんなで定食を囲んだ。今日のメニューは焼き魚定食で、ほのかに香ばしい香りが食欲をそそった。ご飯を一口、また一口と頬張りながら、午前中の作業を思い出していた。手芸で作った人形は、仕上がりこそ不格好だったけれど、僕にとっては大切な一つの成果だ。
午後の仕事が始まる前に、午前中の作業を終えた人形を職員さんに見せた。「可愛いね、これなら販売しても喜ばれるよ」と言われ、胸が少し熱くなった。こんなふうに、少しずつでも自分の作ったものが認められるのは、やっぱり嬉しいものだ。
新しい時間帯での生活リズムは、まだ完全には慣れていないけれど、これからも少しずつ自分なりに進んでいきたい。午前中の新しい風景を楽しみながら、自分らしく働くことを続けていけたらと思う。
(第4話 終)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます