第3話 苦手な流れ作業
事業所には様々な仕事があるけれど、その中でも僕が最も苦手としているのが「流れ作業」だ。流れ作業とは、例えば一つの作業を複数の人で分担し、次々と進めていく仕事のことだ。弁当箱の組み立てや、野菜の仕分けなど、時間に追われる感覚がどうにも苦手で、ペースが乱れると気持ちが焦ってしまう。
ある日のこと、職員さんから「今日は、みっちゃんも流れ作業に入ってみようか」と声をかけられた。野菜の仕分け作業で、決められた重さにパック詰めし、それを次の人に渡していく仕事だった。正直に言うと、その言葉を聞いた瞬間、僕の心は不安でいっぱいになった。これまでも流れ作業に挑戦したことはあったけれど、その度に手が震え、思うようにいかず、失敗することが多かったからだ。
「無理だったら、すぐに言ってね」と職員さんは優しく言ってくれた。けれど、僕はその時「やってみます」と答えた。苦手だからこそ、挑戦してみたかったのだ。
作業が始まると、周りの人たちの手際の良さに驚かされた。まるで機械のように正確に、次々と野菜をパック詰めしていく。僕はそのスピードについていくのに必死で、焦るあまり、手元が何度も狂った。パックに野菜を詰める量が多すぎたり、少なすぎたり、どうしても周りと同じペースで作業を進めることができなかった。
そのうちに、他の人たちの手が止まり、僕のミスが目立ち始めた。「大丈夫?」と声をかけられる度に、自分が足を引っ張っているようで、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
しばらくして、職員さんが僕のところに来て、「みっちゃん、少し休憩しようか」と言ってくれた。僕はその言葉にほっとして、手を止めた。別室に移動して、深呼吸を何度も繰り返した。手の震えはなかなか止まらず、自分が不甲斐なく感じられた。
その後、職員さんと話をして、僕は再びひとりでできるシール貼りの作業に戻った。やはり、自分に合っている作業だと感じた。シールを一枚一枚丁寧に貼ることで、少しずつ心が落ち着いていった。
「無理してやらなくても大丈夫だよ。みっちゃんが得意なことを頑張ればいいんだから」と、職員さんは優しく言ってくれた。その言葉に、少し救われた気持ちになった。
苦手なことに挑戦することも大切だとわかっているけれど、無理をして心や体に負担をかけすぎるのは良くない。自分に合った仕事を見つけて、それを大事にしていくことが、今の僕にとっての「頑張る」なんだと改めて感じた。
流れ作業の苦手意識はまだあるけれど、少しずつでも向き合って、自分なりのペースで前に進んでいきたいと思う。焦らず、無理せず、できることを積み重ねていくことが、僕の大切なスタイルだ。
(第3話 終)
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