第3話
仲良くなろうとした子に仲良くなりたくて、付いていく度に「金魚のフンみたい」といじられたときもあった。
思い出したら、あの頃から私の中には表でエヘヘと笑い演じる自分と、そんな自分の事に追い付こうと必死になって疲れている自分が居る。
周りの事を羨ましく感じて、その度にその幸せを掴めない自分に嫌になって。
私って何のために生きているんだろう。
「そんなん、誰にも分からへんよ。」
そう言いながら裕太は焼き鳥を一口齧った。
「うっま!やっぱりここのせせりは正解やったわ。真子も食べへんの?」
「あのさ、ここに来たのあなたの食事のためだっけ?」
「へ?ああ、そうやったそうやった!すまんすまん!」
そう言いながら髪を掻き、ヘラヘラと笑う裕太に怒る気にもならない。
なぜか心地よい、そんな気もした。
「でも、お前匠吾と付き合ってたなんて知らんかったわ。
あいつ何も話さんし。」
そういえば裕太と匠吾は小学生の頃からの付き合いとか言ってたっけ。
匠吾はただの腐れ縁だって言っていたけど、裕太が隣に居るときの匠吾は他の同級生と居るときより楽しそうな気がした。
「てっきり裕太は知ってるのかと思った。」
「知ってたらこんなに真子にはちょっかいかけへんよ。あいつそういうの気にするやろうし。」
「そんな事。ないと思うよ。」
「え?」
「匠吾には。私迷惑かけてばっかりだったし。」
「迷惑?」
「匠吾は言葉にしなくても伝わってると思ってたけど、私はそれ以上を求めて、匠吾の事を困らせていたの。」
私のもう一人の自分の欲望を抑えきれなくなって、それの結果匠吾は私を愛せなくなった。
私が、もっと良い彼女になれれば、何て思ったけど。
「そう思ったときはもう、匠吾は私のメンヘラに愛想尽きてたから。」
握りしめていたコップに入った烏龍茶はもうとっくに緩くなっていた。
私、そんなに裕太に自分の事話していたんだ。
ふと目線をあげると、そこには真剣に話を聞いている裕太が居た。
「ごめん!話し過ぎだよね!せっかくの焼き鳥が不味くなる話して、ごめん。」
「そんな事ないやん。真子がそんなに自分の事話してくれたの、俺嬉しいで。」
そう言って笑いかける裕太の笑顔はいつも通り太陽みたいに明るく感じた。
「いいなあ。」
「何が?」
「裕太みたいに自分に素直に生きたいなと思って。」
「真子だって普通に生きてればなれるで?俺普通に生きてるだけやし。」
「その普通が出来ないの。」
そうツッこむと裕太は嬉しそうに笑った。
「でも、今真子が楽しそうに笑っとるならそれが普通に生きとるってことなんやない?」
「裕太・・・・」
‘‘俺を依存しないでくれ。もうしんどい。’’
悲しそうに言う匠吾の顔を思い出す。
怖い。このもう一人の自分を出すのが、とても怖い。
‘‘でも、この人なら私を満たしてくれるんじゃないか。’’
そんな期待したら、きっとまた後悔する。
「そんな事言ってくれるの、裕太だけだよ。」
作り笑いを浮かべ、俯いていた顔を上げた先に見慣れた姿が立っていた。
「真子・・・・」
「・・・・匠吾。」
もう一人の私が、心の中で危険信号を振り回しているような気がした。
見えない自分にバイバイする方法 舞季 @iruma0703
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