第2話

「お前といると、俺まで辛気臭くなるんやけど。」

「メンヘラ過ぎんねん。」


最初は可愛いって沢山言ってくれた元カレの最後に会った時に言われた場面が何度も頭をよぎる。

そしていつしか私は、人の顔色を過剰に見る癖がついてしまった。


先にはわいわいと賑わう同級生の集団。

みんな楽しそうに話しているのを見ていると、羨ましくなる。

自分もあの輪に入れれば良いのに。

‘‘入ればいいじゃん、きっと楽しいよ?’’

心の中の私が励まされるけど、その輪の中に見慣れた顔がいた。


その中には私の彼氏だった匠吾が居た。

私と付き合っていた時と同じような笑顔を浮かべて楽しそうに同級生達と話している。

そう言えば匠吾と別れてから同じ講義に出ないようにしていたんだっけ。

結局私は、嫌なものから逃げてばっかり。

いつも私はタイミングが悪い。

なんで、なんで私ばっかり。

‘‘向こうは対して気にしてないよ。あんなの放っておけばいい。’’

分かってる。でも、私の中の泥々としたものが頭の中を侵食していく。

きっとここにいたら匠吾も嫌な気持ちになる。

匠吾の周りの人にもきっと私は嫌われているはず。


ぼーっと集団を見ていると、ふと匠吾と目が合ってしまった。

匠吾は気まずそうにしながら私から目線を外した。

「!」

その動作に、私の心が締め付けられた。


気付いたら教室を出て、大学内の隅のベンチに座っていた。

「講義、サボっちゃった。」

匠吾のあの顔が頭から離れない。


私って、こうやって嫌なものから逃げていく人生なのかな。

何かに依存して、嫌がられたらそこから逃げて。

‘‘でも、私はただ匠吾に愛されたかっただけじゃない。’’

でも、その愛情が匠吾のは重く感じた。

だからあんな事を言わせてしまった。

‘‘もう過去の事なんだから、忘れようよ。’’

もう一人の自分がそう励ますけど、そんなに前向きになれない。

私っていつもこう自分を悲劇のヒロインにしようとする。

そんな自分を好きになれない。


足元が暗くなりそのまま下に沈んでいきそうな、そんな気がして自分の膝を抱え込んだ時だった。


「やっと見つけたわ!」

聞き馴染みのある明るく透き通った声。

「・・・裕太」

そうか。

自分の重い気持ちが足元を暗くしたんじゃなくて、目の前に裕太が立っていたから暗く感じただけか。

そう思うと心の泥々としたものが急に軽くなったような気がした。

「教室に入ってきたと思ったら、どっか行ってまうから俺も講義サボってしもうたやん。」

そう言いながら、裕太は私のとなりに座った。

「なら、気にしないで受ければ良かったのに。」

「せっかく心配して来たのにそな言い方酷ない?」

そう言いながらも、裕太は少しニコニコしている。

「なんでそんなニコニコしてるの?」

「いや、言い返す元気があって良かったわ。教室に入って来たときの真子、この世の終わりみたいな顔しとったで。」

裕太がいたのも知らなかったし、私がそんな顔していることも知らなかった。

「そりゃあんな顔見たら、心配になるやろ。」

「・・・・・そっか。でも、大丈夫。そう言ってくれるだけで嬉しいから。」

‘‘ほら、そういってまた壁を作ろうとする。’’

もう一人の自分が心の中でぼやく。

‘‘素直に甘えればいいのに。’’

嫌なの。また期待して裏切られたらと思うと。

人に自分の胸の内を知られることが、どれだけ自分が傷つくかを。

「私、もう行くね。」

泣きそうになっているのを裕太に見られたくなくて、ベンチから立とうとした時たっだ。


体が暖かい。

それが抱き締められているのだとすぐ分かった。

「ちょっと、裕太離して」

「なんでそんなに自分で壁作るんや。」

「壁なんて作ってない」

「悲しいなら、悲しいって言わな自分が苦しくなるだけやで。」

「!」


なんで、なんで今言って欲しいことをそう裕太は言ってくれるんだろう。

期待してはいけない。

でも、もしかしたら。


「真子、自分の気持ちを大事にせな自分を殺してしまうで。」

言わないで。そんなまっすぐに素直な気持ちをぶつけてこないで。

そんな事言われたら、自分の心が零れてしまう。


「裕太、私このままじゃ自分を嫌いになっちゃいそう。」

私は涙混じりに言葉を溢し、裕太の胸の中に顔を埋めた。




































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