見えない自分にバイバイする方法

舞季

第1話

自分の中で自分を演じている。

そんな事を思うのは、私だけではないはず。


こんなの私じゃない。私はもっと頑張れる。

”違う。私はここまでしか出来ない。”

なんで、私ばっかり。

”私ってこんなに出来ない人間だったんだね。”

見えない自分に自問自答する毎日。


そこに、あなたは現れた。


「なあなあ、なんでそんな悲しい顔してるん?」

見上げるとそこにはみんなの太陽みたいな、

誰からも好かれている1人の男、大学の同級生である裕太が立っていた。

「別に、あなたには関係ない。」

「ツレへんなあ。訳くらいはなしたってええやん。」

「・・・・・・・」


どうせ、あなたには私の気持ちなんて分からない。

”ほら、優しくしてくれるのになんで素直に甘えられないの?”

だって、人は裏があるの。

どうせ、話を聞いたって面倒な奴だって思われるだけに決まってる。

”なんでそんなに人の裏を見ようとするの?

素直に甘えればいいのに。”

出来たらそんな事最初からしてる。


「あ〜!」

急に隣で大きい声を出され、びっくりした私は隣を見ると、大きい声を出した裕太が目を大きくしてこちらを見ていた。

「え・・・・何?」

「何って、あなたが大きい声だしたんじゃない。」

「あ、そうや!今日大学の売店日替わり定食、俺の大好物やったん忘れてたんや!」

天然パーマなのか少しクルクルしている茶髪の髪を掻きながら裕太は立ち上がった。

「え・・・・?」

「なあなあ、今からなら間に合うから行こ!」

「え、でも私そんなにお腹すいてない」

「ええから、行こや!」

そう言って私は手を取られ、走り出した。


「ん〜!めっちゃうまい!」

目の前には大きなトンカツを嬉しそうに頬張る裕太がいる。

この人、私を心配してたの忘れてないかな?

「ほら、真子も食べや。」

「私は、いい。」

そう言って汲んできた水を飲んだ。

「いいから!」

そう言って裕太は自分のトンカツの1切れを私の目の前に置いた。

「・・・・なんか、あなたの箸で掴まれたトンカツ食べたくないんだけど。」

「ひっど〜!人の善意をそんな風に言って!ええから、食べてみ!」

裕太はオーバーリアクションで凹んた様子を取りながらも尚勧めてきた。

もう面倒くさくなった私は、不貞腐れたようにトンカツを食べた。


「どうや?」

「・・・・・美味しい。」

「そうやろ!!俺ここのトンカツめっちゃ好きやねん!このトンカツ作ったおばちゃんを雇った大学を褒めたいくらいや!」

本当に、この人は裏がない。

思った事を真っ直ぐに言ってるような気がする。

「大袈裟過ぎでしょ。」

大真面目に言っている裕太にクスッとつい笑ってしまった。


「良かった。やっと笑ったやん。」

裕太が優しい声で言った。

「え?」

「真子、たまにどこか遠くを見る目して座ってる時あるやん?なんか、見てると本当にどこか行ってしまうんやないかって不安になるんや。」

「・・・・そうかな。」

「そうやで。お前、自分が思ってるより頑張りすぎなんちゃう?」

「え?」

「よく人の様子見て話してる気するし、何か言いたげやけど、合わせてるような笑み浮かべてる時もあるし。心配になる。」

いつになく真剣な眼差しで裕太は私を見て言う。

「・・・・別に、大丈夫だよ。」

「そうか?でも、何かあったら言いや?

俺はいつでも相談乗るから!」

そう言って裕太はまた目の前のトンカツ定食を美味しそうに食べ始めた。


裕太には、気付かれてたのかもしれない。

私がここから消えたいと、そう思っていた事を。

もう1人の自分からも逃げて、全てを終わらせたいと思っていた事も。


”私ってトンカツ好きだったんだ。”

私もびっくりした。トンカツってこんなに美味しかったんだね。

”美味しいって感じれるって幸せなんだね。”


「ねえ、裕太。」

「ん?どないしたん?」

「・・・・また、一緒にご飯たべていい?」

私の問いかけに、裕太は満足気に微笑んだ。


私も、もう1人の自分も受け入れて生きていけるかな?

”生きれるよ、だって、今も私笑えてるもん。”

初めてもう1人の自分の顔を見れるような気がした。


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