第10話

馬車で数ブロックほど行った病院の門をくぐる。

この町の建物の中でもひと際立派な病院だ。


病院と言っても教会に併設された施設……と言う方が正しいかもしれない。


馬寄に停まるとルイはノアに促す。


「降りろ」


「……」



ルイはノアを連れて中に入った。


受付台に座っている男は虫メガネでクリスを見て少しフリーズした。

 

「こ、これはこれは伯爵様ではありませんか。いやいや、本日はいかがされましたかな? このような時間に参られるとは珍しい」


「そうか」


「ええ。ええ。ご必要なら往診いたしますが、いかがされましたか?」


「ルイではない……この女が用事だ」



ガタンと椅子から立ち上がった男は額の汗をぬぐった。


「父上の名は?」


「エドワードです。エドワード・N・スミスです」


「だ。そうだが……その男の部屋をよい部屋にしろ。治療費と部屋代の請求を僕宛に。内訳も忘れずに寄越せ」


「は、はい!」


「上乗せしての請求などするなと院長に伝えておけ。うちの使用人が診察した時の請求額はずいぶんなものだった」


「は、はい! 承知しました」


「それだけだ。また参る」


「は! 承知しました!」


会計の男がそういうと納得したようにルイは背を向けノアの手を引いた。


「行くぞ」


「あ。あの父に」


「おまえ……その汚い格好で面会の行くのか? それにもう遅い、父上は病人であろう? 明日にしろ。無礼だ」


「! ……はい」


ノアはルイの言う通りだと思い素直に頷いた。

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