第8話
「何て事かしら」
「……」
「医者代をなんとかしなくてはね……ご忠告ありがとうございます」
がっかりとした様子でうつむいて呟いたノアは片づけをすると荷物を持ちあげた。
ルイは値踏みをするように見て言った。
肩を落とす表情も美しく儚げであるのに生命力に溢れる、そんな不思議な魅力だった。
「女……ノアと言ったな。さっきのと違うのはないのか」
「歌のことでございますか?」
うん。とも、ううん。とも言わずじっとノアを見つめたルイの瞳は片方が青く、もう片方は琥珀色をしていた。
羽根つきの帽子のつばから覗くルイの瞳は大きく深い夜かう耳の底のようだとノアは思った。
「他にも……たくさんございます」
「では、歌ってみろ」
「……」
「歌え」
「イヤです」
ルイは目を見開いた。
「私は、曲がりなりにも歌で生業をたてておりますゆえ……歌えと急に命じられても支度がございます」
「……」
「お聞かせするならば、適当な物では私の気持ちが収まりません」
「ははは! 面白い! よし、ついてまいれ」
「え?」
「先ほどの歌は実に素晴らしかった。確かにこんなところで歌わせるのは忍びない」
そういうとノアの手をつかんだ。
細いのに大きくしっかりとした手をしている。
ルイはそう思いながらしっかりと捕まえるとノアはそれを振り払う。
「お止めくださいませ」
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