第6話
ルイが離れを訪れるのは月に一度だけだった。
その他の時にやってくれば、女たちが気を使う。それをいやがり、何かあれば屋敷の執事や侍女たちが用事を受けたまわった。
自分が離れへ行けば、女たちは気をつかうだろうと思っていた。
媚びへつらうような女はいなかったが、それでも雇い主であるルイがやってくれば多少のもてなしや社交辞令の美辞麗句を並べる。
そんな煩わしい事に時間をさかせるのは忍びないと思っていたのだった。
だからルイは、月に一度だけ現れ、労いながら女たちに給金を渡した。
そんなルイがノアを拾ったのは肌寒い雨上がりの夜だった。
滅多に出ないパーティーの賑やかさとケバケバシさにうんざりしてぶらりと町に出た時だ。
今夜はどうだろうか? めっきり寒くなってきたせいか普通に歩いている人間も少ないように感じながら川沿いに馬車を待たせる。
ピカピカと磨かれた美しい靴で裏路地をゆっくると歩いてまわる。
いつものように、器量のよい娘を探すためだ。
だがやはり、いつもと違ったのは辻ごとに立っている女どころか物乞いすらいない事だった。
「どうしたものか」
肌寒さのせいにしては些か不気味すぎるほど人がいない。
不思議に思いながら歩を進めると小さな広場がある方から大きな歓声と拍手が聞こえる。
「?」
足早にそちらに向かいよく見る客引きや娼婦、客と思しき男の姿もあった。
そっと近づくと、美しい歌声が響いた。
「……!」
ルイは夜の女神が降りてきたのかと思った。
長い髪をリボンで軽くまとめ背中に垂らし質素ではあるが造りのよい服を着ている女は、この辺りは見ない顔たった。
ルイは今までに見た女の中で一番に美しい女だと思ったのだった。
ビリビリと雷に打たれたように痺れ、その声に聞き入ったのだ。
女の歌が終わると粗悪な作りの花籠にコインや菓子を入れた見物客が立ち去る。
「はあ」っと吐息をこぼし女は片づけを始めて寒そうに腕をさすった。
「……そこの女」
立派な羽根のついた豪華な帽子を被って立っているルイを見上げたノアは驚いたような顔をした。
都から外れた小さな町にこんなにも美しい男がいたのかと驚きとときめきを感じたあと冷静な口調で言った。
「何かご用意でしょうか?」
ルイも聖女のような悪女のような女を見て体が震えた。
「……名はなんと申すか?」
「……ノアでございます」
ノアは上等な上着を着た男はこの辺りの町並みには不釣り合いなほど品があり、いい香りだと思いながら答えた。
「……ストリートキッズか? 行商か? クルチザンではあるまい」
「……ストリートキッズではございません。父と方々を回っておりました……ですが父が病で倒れましたゆえ、この町で滞在しているところです」
「旅の者か……父上は死んだのか?」
ノアはムッとして言った。
「勝手に殺さないでくださいませ!」
「おっと……ご存命であるか、これは失敬」
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