第4話

男たちはルイのもとに集まると口々に言った。


「ルイ殿。あの姫君はいったいどこで?」


「掃きだめですよ」


「そんなバカな、あのような女神が掃き溜めにいるはずがない」


「いえいえ、私が拾った時はまともに風呂も入っておらず臭く腹をすかせた野良猫でしたよ」


「なんということだ、あのように美しいのに」


「それとて構わぬ美しさ……そしてあの美声、素晴らしい!」


ルイは満足そうに頷いた。


「美しいてしょう? 天使と見間違う」


「ええ、ええ!」


「是非とも一晩お願いしたいが、屋敷を売らんといけないだろうね」


ルイはワインに口をつけると微笑んだ。


「大変残念ですがダメですよ、あれは誰にも売りません。時間も体も売らせない。私のかわいいペットですからね」


「ペットですと?」


「そうですよ、命尽きるまで……精神的にも世間的にもね、私のものにします……いや。このルイがそうなるのか? ははは!」


周囲にいた者はこれには驚きを隠せなかった。


ルイが何かに固執したことがなかったからだ。


「たとえ国王でも、あの猫を奪おうものなら許さないでしょうな。ルイはそれほどにあれに執着しております」


カラカラと笑って言ったルイはノアを見て口角を上げた。


冷酷非道の伯爵様と悪名の伯爵が熱を帯びた瞳で歌を歌う天使を見つめる様子は、ご婦人方の胸をきゅんとさせ男たちの心を揺さぶった。


「伯爵をこんなにも骨抜きにしてしまうとは、どんなにすばらしい女なのだろう」


「ますます興味がわきますな」


と、ノアと一言で良いから話したいと思ったのだった。


歌が終わりフロアに降りてきたノアに、代わる代わる男たちが話しかけた。


いや、男だけではなく女も話しかけノアの魅力を他の者より1つでも多く見つけ出そうとした。


ノアは花のように笑い、洗練された綺麗な言葉で話した。


なるほど、伯爵が手放したくないと思うわけだと納得しながら男たちはスレンダーな体を見ていやらしく笑った。



ルイはそんな下品な男たちと、ノアに劣る女を満足げに見ていたのだった。

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