第3話
変人・狂人と名高い伯爵がどうやら女を飼っているらしい。
とても美しい女で、伯爵は虜になっているらしい。
と、サロンで噂されるようになったのは少し前のお茶会での話だ。
モダニズムな風潮と古きよき時代が入り交じったこの国では、まだまだ貴族が強い力を持っていて、月に一度、二度のお茶会やパーティーにと興じていた。
お菓子とお茶の合間に下世話な話で退屈な毎日を満たす貴族たちは、ゴシップに興味たっぷりだった。
そんなお茶会で持ちきりだったのは、あの伯爵家の庭に見知らぬ女がいた。
変わり者だが美しい伯爵。
それは美しく男とも女とも言えぬ容姿を持っているのに、誰も寄せ付けぬ冷たさとパーティーにも茶会にも滅多に現れない。
そんな伯爵は大きな屋敷に1人で住んでいるはずなのに、庭を裸足であるく少女を見た。
ガゼボでお茶を飲む少年だった。
などと怪現象のような話から始まり、年増の子爵夫人が実際に刺繍のテーブルクロスをプレゼントに届けた時に女の声を聞いたとお喋りした時は周囲は凍り付いたと同時に興味津々に耳を大きくしたのだ。
容姿端麗で華のあるルイは社交界でもご婦人方の憧れであった。
だが、どんなに口説こう言い寄ろうとも決してなびくこともなく誰一人として抱いたことがない。
男色ではないかとすり寄った下級貴族もいたが相手にもされず、伯爵は人間がお嫌いだと言う噂に納まった。
「伯爵様。最近、面白いペットを飼われたそうですわね、わたくしたちにお披露目していただけません事?」
鼻にかかった声でそういう子爵夫人にルイは涼しい顔をして言った。
「ええ。少し前に美しい女神を拾いました。飼いはじめて、なかなか日々愉快です。皆様にお披露目できるまでお待ちください」
「ま、まあそうですの! どのような姫かしら? 公爵婦人はご覧になったと聞いたけれど」
「そうですね、一度だけお茶会に連れて参りました」
「まあ! 拙宅にもお連れしてくだされば」
ルイはふふふと笑った。
「昨晩、少し愛し合い過ぎましてな」
「え!」
「今日は今夜に備えて留守番を命じたのです」
「!」
まさか本当に人を飼っているとは皆驚いたが、あの伯爵ならそういう事もするだろうと言う気もあった。
「犬だかブタだか知らないけれど、街の下民の集まる広場で拾ったらしいよ」
「あの方は本当に物好きだ」
みんなそう言いながら『伯爵に飼われる女』を見る日を楽しみにしていたのだった。
その歌声と天使のような容姿でたちまち殿方だけでなくご婦人も魅了したノアを見てルイは満足げに微笑んでいた。
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