第2話

「ねえ! ご覧になって! 噂の」


「初めてお出になると伺っていましたけれど、何かしら! いやらしい女よ」


「まあ、貧相な胸だこと!」


「ごらんあそばせ、スレンダーであるけどまるで枝のようだわ」


「あれでは抱き締めてもねえ、ほほほ」


「きっと、お金に困って肢体ごと伯爵様に売ったのよ」


「ほほほ。体丸ごと? やあね、汚らしい女。所詮娼婦でしょう?」


「聞こえるわよ、ほほほ」


「伯爵様の奴隷と聞いたわよ」

 

「なるほどね、伯爵様は美しいけれど変わり者ですものね」


あちこちから悪口や下品な笑い声が聞こえる。


「クルチザンだって噂だよ? いくらで一晩なんだ?」


「あの伯爵のことだ、金貨を荷馬車に一山持ってきても自分が気に入らなければ断るさ」


「男色でもなきゃ、女にも興味がないときた……そんな伯爵が連れてくるなんて余程だぞ」


「あのお方は若いのにナイトの称号を御持ちだ、お偉いのさ」


「しかし、見てみろ美しい女だ。まるで天使のようじゃないか」


「本当にな、ご婦人がたはお気に召さないようだが可愛らしい」


「ああ、やや肉体的には魅力にかけるが下品さはない」


ノアは震える手を隠すようにドレスをつまんで階段を降りた。


ちょうど真ん中の踊場にやって来るとルイが大きな声で言った。


「お集まりの皆様、あれはのこのルイの寵愛を受け、いずれは我が伴侶となるノアにございます、しばしお耳汚しをお許しください」


ざわざわと皆の同様が伝わるのをノアは楽しんでいるようだった。


「我が伴侶ですって?」


「あの伯爵様が?」


「信じられないわ」


パンパンと手をたたくとノアを見て口を動かした。


『失敗したらお仕置きだ』


そう言ったのがノアも解ったのか、不敵に微笑むとすっと小さく吸い込んで歌い出したのだった。



ノアの歌声は高く低く軽やかで小鳥のように可愛らしく、地鳴りの様に猛々しくせせらぎのように心地がよいものだった。


それと同時に陽春の雌猫のあげる悲鳴のような啼き声のように、鼓膜に張りついて拭えない音でもあった。


出で立ちを見て失笑した紳士淑女は呼吸を忘れたように、その甘美な歌声に引き込まれた。

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