第13話

「大抵の男は、酒の勢いだとしても『好きな食べ物はなに? いいイタリアンの店があるんだけど、イタリアンは好き?』とかね『洒落たバーがあるんだよ。いい勉強になるから行ってみる?』なんていう遠回しなお誘いをしてくるわ」


「そうなんだ」


「お話も商売道具のひとつじゃないの? 美容師の男ってだいたい適当にお洒落で適当に話が上手いもの」


「今は、仕事中じゃないから」



納得したように頷いた彼女は煙を吐き出す。



「嫌いじゃないわ」


「何が」


「そういうの。ユータロのそういうバカっぽいところ、好きだわ」


「褒めてる?」


「褒めてる」



テーブルにあるデキャンタに入った水をカクテルグラスに注ぐと飲み込む。



「何か、持って来る?」


「うん。ノンアルじゃなくていいよ」


「そう?」


「うん」


リカはベルを鳴らすとウエイターに注文をした。



暫くして運ばれてきたカクテルはまたオレンジ色の液体だった。



「花言葉みたいに、お酒にも意味があるのよ? 知ってる?」


「初めて聞いた」


「答えがわかったら会いに来て、期待しないでいるから」


「……」


「? スクリュードライバー?」


「そう、正解。そのカクテルの意味が解ったら、返事をしてあげるわ」



彼女はそう言って煙草を消すと立ち上がった。



「楽しい時間だったわ。ユータロ」

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