5:デザート~黒猫のフォンダンショコラ
第39話
「はぁ……飲みすぎだ」
「酔ってないわ。ううん……酔てるけど意識はとってもはっきりしてるもの」
「最悪な酔い方じゃねえか。ほろ酔いじゃなきゃ、しっかり酔っぱらわないと酒に申し訳ねえよ……ほら、言う事聞け」
強い口調で言って靴を脱がせて2階まで抱っこをして連れていく。
「きゃあ! おろしてくださいぃ!」
「こら! 暴れるな。階段で危ないだろ!」
「恥ずかしいです!」
「誰も見てねえだろ!」
所謂お姫様抱っこと言う奴で会談を上がる。蜜さんは顔を真っ赤にして足をバタつかせた。
「大丈夫ですってばぁ」
「はいはい。もうつくからおとなしくしとけ」
「……ううう」
蜜さんの部屋であろう扉が開いていて中にベッドがあるのが見えた。
蜜さんは今現在こんな広い家でひとりで暮らしているのかと思うと少しだけ不憫になってきた。
「はい、つきましたっと」
俺は蜜さんはをポスンとベッドにおろした。
「……あ。ありがとう……ございました」
悠々自適のひとりぐらしなんていうけらど、人間だって猫同様で人肌恋しい生き物なのだ。
眠るとき、ほんの少しでも誰かとふれあってるどけで格段に落ち着くのだ。
「じゃあ……俺は帰りますね……明日は休みですからゆっくり寝てください」
そう言ってくすっと笑うとベッドに腰かけた蜜さんの頭を軽く撫でた。
その手を、そっと掴んだ蜜さんはぐっと引っ張って自分の頬に押し当てた。
「ハルさん……大きな手ですね」
「……」
蜜さんは深く溜め息をついた。俺の心臓は飛び跳ねて口から出てきそうだった。
「ハルさんが……帰ったあと」
「はい」
「店も部屋も……静かすぎるんです……帰らないでください」
「……眠るまでここにいるか?」
蜜さんは俺を見上げた。
「子供扱いして……もう」
「はは! そうか……じゃあ早く寝る事だ。明日は二日酔かもしれないぞ」
「……そんなに、酔ってません!」
強い口調で言った蜜さんを見下ろして声をかける。
「どうした? もしかして、あの……あの男にあってセンチメンタルか?」
少しふざけたように言うと、蜜さんは首を左右にふった。
「……センチメンタルになるほどの付き合いじゃなかったわ」
「……飲み過ぎだぞ」
「……」
「早く寝るんだな」
「そんな……何度も云わなくても解ってる! 解ってるわ!」
くすっと笑ってそっと手を引いて背中を向けた。
「……おやすみ」
ぼふっと、蜜さんが背中にもたれて深く息を吐く。
「……! 蜜さん」
「ハルさん、お願いよ……帰らないで下さい」
「……そんな事いうと、俺……とまんなくなりますよ」
「うん」
「……どういう意味か解ってるんですか?」
背中に蜜さんの深い温かい吐息がかかる。
「……」
ふり返りそっと蜜さんを抱き締めてゆっくり呼吸する。
猫のこういう好意に情緒はない。
いや、猫だけじゃないかも知れない。動物は単純に本能的な思考でしかなく、発情というカタチでの子孫反映の本能を満たすために行為に及ぶ。
もちろん、猫だって相性はあるし、好みだってある。が、人間のような情や羞恥はない。
だから、行為はわずかな時間で済むし後先は何もない。
人間はどうだろうか?
魔法で与えられた予備知識なのか、人間としての本能なのか? 俺は狂いそうなほど蜜さんが欲しいと思っていた。
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