第38話

「ハルさんって。時々すごく」

「?」

「かわいい顔しますよね」

「え?」


俺は目を丸くして蜜さんを見た。


「猫、好きなんですね。猫の話をするとすごく優しい可愛い顔になります」

「……そ……うなのか? うん。猫は好きだ」


蜜さんはうんうんと頷いてワインを一口飲んだ。


「そうだ」


俺はポケットからさっきのヘアピンを出して渡した。


「子供だましだけどな、黒猫に会いたがってたからな」

「! かわいい!」


蜜さんはそれをとってパチンと前髪に留めた。


船の窓に移った自分の顔を見て微笑むと俺に向き直る。


「ありがとうございます! こんな可愛いのどこに売ってたんですか? すごくうれしいです」

「……喜んでくれたなら、良かった。大人の女の人にあげるようなもんじゃないかと思ったんだが……黒猫は月が似合うからな」

「! そう、そうなんです。あの子、いっつもお月さまに溶けるみたいにいなくなってしまって……大切にしますね、これ」


俺は恥ずかしくて小さく頷いた。


船が沖で停った。

花火が空に大きな華を咲かせていく。降ってくるような花火を見ながら蜜さんはウェイターに言った。


「甲板に出てもいいですか?」

「デザートはそちらにお持ちしますか? それともお持ち帰りにご用意もできますが」


俺の顔を見て首をかしげた蜜さんに頷く。


「じゃあ、持ち帰りにしてください。かわりにワインをもう一杯づつ、お外にもっていきます」


食事を済ませて甲板に出ている人間が何人か空を見上げる横で、ウッドベンチに座って小さく乾杯をした。

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