第37話

「そうだ……八百屋のおばちゃんが、山のようにトマトくれたろ?」

「そうですね、いつの間にかハルさんファンがあっちこっちにいますからね。イケメンのコックさんって」

「ははは! それはどうかわからないけどな。あのトマト、明後日のランチで出そうと思ってる」

「パスタ? とかにしますか? それだったら明日から煮込まないとダメですね」

「いや、トマトの中をくりぬいて、ハムかベーコン……あとチーズと玉ねぎとキャベツか、レタスか……和ドレかなんかで和えたのを詰めて出すんだ。カリカリに焼いたトーストとかつけてな」


蜜さんはくるんと瞳を回して考えた。


「トマトカップサラダ!」

「ああ、そうだ。目にも楽しいだろ? 女性のお客にはうけると思うが……どうだろうか?」

「うん! 素敵だと思います! 男性客には物足りないかもしれないから、他のランチでボリューミーな物を出せばいいでしょうしね、あとは定番のパスタとかにすればバランスいいと思います!」

「そうだな、これだけ? ってならないようにパンのチョイスを考えないとな」

「ベーグルはどうですか? あ、でもコスト的に考えると食パンでお代わり一回まで無料とかね」

「うん、いいな。それなら男も頼むかもしれないな」


蜜さんは嬉しそうにパチパチと小さく拍手をした。


「でも、明日は定休日なんですから、お店のことは忘れて飲みましょうよ?」

「ははは! 酒強いのか?」


そうえば、蜜さんとゆっくり飲んだことがなかった。


 俺やレイはマタタビにも酒にも強い方だと思うが、蜜さんはどうなのだろうと思いながら見つめた。


「どうかしら? 一応、理性は保つようにしてますよ、でも、きちんと歯磨きもしてパジャマで、寝てるのにどうやって帰ってきたか記憶が曖昧とかありますけど」

「危ないなぁ」


ふふふ、と、笑った蜜さんは短く整えた桜色の爪をした指先でワイングラスを持ち上げた。


「ハルさんは酔うとどうなるんですか?」


 ボス猫たるものそんなに乱れた姿を他の猫に見せなかった。


 油断している時にいつポジションを狙われるか分からないし、いつ何があるか分からないその日暮らしの自由にゃんだからだ。


「酔いつぶれる前に、やめる。かな?」

「あら、大人ね」

「ははは! 自己防衛っていってくれるか?」

「意外な一面を発見だわ!」


楽しげに笑った蜜さんを見て俺も笑った。

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