第32話
花火大会への道は混んでいたが、元猫からしたら興味津々の連続だった。
危なくてなかなか近付けなかった夜店は、日常ではあり得ないような変な商売だと思いながら眺めて歩いた。
「すごい人ですね」
「ああ……はぐれないように気を付けて……」
「どうかしましたか?」
「こう言う時は、普通は手を繋ぐのだろう?」
「え!」
「……違うのか?」
手を差し出すと蜜さんは顔を真っ赤にさせてその手を取った。その顔があまりにも可愛らしくて俺まで恥ずかしくなって来た。
「……ハルさんの手って、意外とプニプニしてますね」
「ぷにぷに?」
「手の甲は硬くて男の人のですって感じなのに、手の平の方は、指の付け根とか……ふふふ、猫の肉球みたいで気持ちいい」
驚いて目が落ちるんじゃないかと思った。そりゃそうだ、だって猫なんだから肉球感触なのも頷ける。
最も俺はその感触がどういうものかはよくわからない。
「あ、ごめんなさい……変なこと言いましたね」
「いや、大丈夫だ」
きゅっと繋がれた手から、俺の心臓のドキドキが伝わってしまわないかと思いながら人のなかを歩いた。
「蜜さんの手も……柔らかいと言うか、ぷにぷにしてるぞ」
「! あはは!」
この夜店にも元猫は沢山いた、動くネズミのおもちゃを売ってたり、沢蟹釣りをやっていたり、金魚すくいをやっていた。
どれも、猫が好みそうなものを扱ってる店ばかりで何だかおかしくてたまらなかった。
「なんか、ハルさん楽しそうでよかったです」
「……ああ。面白い。実は夜店に来たのは始めてなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、おかしいだろ?」
「そんなことないと思います、だってユキちゃんが言ってたけれど外国生活が長かったんでしょ? こっちのお祭りを知らなくても当然よ」
そういえばそんな設定になっていたな、と思いながら曖昧に笑って返す。少しだけ騙しているような気分だったがしょうがない事だと諦めながら話した。
「蜜さんはよく来たのか?」
「ええ、子供の頃は……でも何年ぶりかな? 仕事をしてからは始めてかもしれません」
「そうか」
露店が途切れて花火大会のメイン会場の近くに来るとレジャーシートを敷いたり簡易チェアに座る人が沢山いた。
「何か敷物を持ってくればよかったな」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫と言ってもなぁ」
辺りを俺が見回すと蜜さんは子供のように得意気に言った。
「こっちです」
「?」
ディナークルージングとかかれた船の乗り場までやってくると俺を見上げた。
「これに乗ります」
「これって……船か?」
「はい、本当は兄とさおりさんにプレゼントしようと思って買ったんですけど、あのふたりは店の子たちと屋形船を借りてるそうなんです。だから、ハルさんがデートをしてくれなかったらこのチケットは無駄になるところでした」
「……! そうか、なら良かった」
乗船場の待合室はお土産コーナーや自販機コーナーがあって人もわりといたが、夜店の騒がしさや人混みはなくエアコンも効いていて快適だった。
「……キミは」
「!」
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