4:サラダ~ハルのトマトカップサラダ
第29話
4:サラダ ~ハルのトマトカップサラダ
人間として密さんの店で働きはじめて3ヶ月が過ぎようとしていた。
ユキの輸入品屋も売れ行き好調で「おにいちゃん」と呼ばれる事にも違和感を感じなくなってきていた。
仕事から帰って部屋に戻るとレイが甘い酒を飲みながら言った。
「ハルさんも飲みますか?」
「ああ」
「今夜は月が大きいですね」
「……そうだな。またどこかで猫が人間になってるかもしれないな」
「そうですね」
俺達猫は人間になると、基本的に酒が好きなのかも知れない。
またたびの臭いをかいで、酔っぱらったような状態になるのは悪最高に気持ちがいいのだ。酒もその感覚に似ている。
またたびを嗅いでもなんともならないユキなどは、酒の臭いを嗅ぐだけで顔をしかめる。
人間も猫も、嗜好の好き好きと言うものがあるんだと感じた。
「ハルさんのピアス……色が変わってきてるね」
「レイのブレスレットの石だってそうじゃないか?」
俺達は石をまじまじと眺めた。
「3ヶ月でこんな感じだと……本当の人間になれるまでにどのくらいかかるのかな」
「さぁな……どうだかな」
石は魔女猫の屋敷を出たときに比べて、ほんのり黄金色ががっていた。
レイは大抵俺より早く寝てしまっていたが、このところ丑三つ時を回って少し猫化する程度で人間でいられる時間が長くなっていたのだ。
俺に関しては寝ているところを確認してくれるものがいないのでどうなのか不明だったが、石の色からしてレイと同じレベルだろうと推測していた。
「ねえねえ。そういえば、ハルさん、密さんとはどうなのさ」
「どうって?」
「恋仲さ、いつなるんだよ」
「オマエなぁ、そんなもんは『はーい今からなりまーす』ってなるもんでもないだろう?」
「そうだけど、焦れったいよ」
駄々っ子のように足をバタつかせたレイを見て噴き出す。
「……密さんも、俺もなんどけどな。半端に大人ってのは厄介だな。子供なら好きだの嫌いだのってもっとすなおに言えるんだろうがな……いや、子供でなくとも猫なら好き嫌いは物凄くハッキリしてるよな」
「ですね……猫は嫌いなヤツには媚びるどころか寄り付きもしませんしね」
俺は小さく笑った。
密さんの時々見せる悲しい瞳の表情をどうしたら、明るいものにできるかと考えていた。
「野良猫の黒い彼氏が来ない。どうしたのか、死んだのかって、心配しててさ。まさか俺ですなんて言えるはずもないし、言ったとこで信じてくれるとも思えないしな」
「ですよね」
「なあ、もし。人間に俺達が猫だって事を話たらどうなるんだろうな?」
レイは神妙な顔をした。
「僕もよくわからないけれど、話だと……それをきいた人間次第みたいですよ」
「人間次第? ってことは何か? 人間がびびって、あっちにいきやがれみたいな態度をとったら猫にもどるか死ぬかって所か……ふうん」
月の光が強くなったような気がした。
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