第25話

「いつもね、迷ってしまうの。ラブリー過ぎずシンプル過ぎずなランチマットがほしいのよ」


ざざっと音をたててビル風が吹き抜け木立を揺らし、蜜さんの短い髪を少し乱す。


「スゴイ風!」


ふりかえって微笑んだ蜜さんにドキンとする。本当に綺麗だった。

これは、なんと言えば良いのだろうか? 胸がドクドクと脈をうって、それは嫌な感じのものとは全く違う浮かれているようなステップを踏むようなそんなものだった。


「……ハルさんは、こう言う所でデートしたことありますか?」


急にそう聞かれて俺は目を見開いた。猫の俺がこんな洒落た所でデートをしたことがあるわけがない……いや、ある。と、言って良いのだろうか?


仮に、女の子か……いやメスと一緒に食事をするのがデートというなら、したことがあると言うことになる。もっとも、洒落たレストランから出た人間の云うところのゴミと言うヤツだ。まだ生ゴミのようにぬるぬるもしておらず、

悪臭もない残飯は高級な食事といってもいいだろう。


「あると……いえば、あるかもしれん、だが……ないと言えば……ない」

「?」

「仕事? と言うのか……何と言うのか」


蜜さんは少し驚いたように目を丸くしたあとくすくすと笑った。


「何かおかしな事を言っただろうか」

「ううん、違うわ。……そうね、本人同士にその認識がないのにデートと言うのはおかしいわよね」

「……」


俺がどう返事をしていいか考えていると蜜さんは続けた。


「私も、ないのかもしれないわ……学生の頃は、女子高だったこともあるけど、みんなでカラオケ行こうにいったりご飯を食べた事はあるんだけど、働くようになってこういうショッピングモールやデパートなんかに来なかったのよ……そうね。料亭とかホテルなんかで食事することが多かったかしら」

「……接待みたいだな」

「えっ!」

「されたことないから想像でしかないが……接待だとそう言う所に行くんだろ?」

「接待」


蜜さんはクスクスと笑って大きく頷いた。


「そうね。接待だわ。自分に利のある人間をもてなす……そうね。あの頃は、少なからず利があったんでしょうからね」


蜜さんの瞳の奥に言いようのない寂しい光が浮んで消えた。

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