第26話

蜜さんのお気入りだと言う雑貨屋とキッチンウエアを売っているお店を回る。


猫だった頃のオレには無縁の場所だ。


 人間というのはこういう食器やカトラリーにもこだわって食事を摂取するんだからすごい精神進化をしているんだと改めて思った。

 

 そりゃ、俺たち猫だって汚い所では用も足さないし、犬のように何でもかんでも食うわけでもない。コンビニやレストランの残飯を頂戴するのだって、カラス達のように食い散らかすなんてしないし、ビニールやアルミまで食らおうなんて意地汚くもない、それなりの美学というものが猫にはあるのだ。


 カラスはよく言った。


「お前たちも、オレタチと同様に昔は魔法使いに仕えた誇り高い生き物なんだぞ。それが犬コロみたいに人間に媚びて餌なんか貰いやがってさ。ああ。いやだね、猫も落ちたもんだ」


カアカアとうるさく言って寝床の上を飛び回ったカラスに一撃食らわしてやったこともあったが、俺たちは決して人間に媚びていたわけではない。

人間に俺たちを撫でさせてやったり、どうでもいいような話をきいてやったりする代償として食事を貰っているのだ。


「人間も猫も、社会は等価交換で回ってるのさ」


と、カラスに言ったがいくら頭がいいと言われていても、ずる賢いだけの頭しかないカラスには俺たち猫のような人間のすぐそばで培ってきた教養や品はなくわかるはずもなかった。




「疲れましたか?」

「いや、大丈夫だ」

「少し休憩しましょう! お昼もまだでしたよね」


ウッドデッキのテラス席に通されて、ショッピングモールの中の小さな噴水の広場を眺めなた。


「ハルさん、甘いもの平気ですか?」

「ああ、うん」


曖昧に返事をしたものの、平気? なのだろうか? 甘いものを食べたことがあっただろうか? そう思いながらメニューを広げた。


「私、これにします。ドリアセット」

「じゃあ、俺は、デミハンバーグのセット」


注文をすると蜜さんは俺を見て笑った。


「タバコ、吸わなくて平気ですか?」

「……ああ。平気」

「そう。ならよかった……今日は、付き合わせてすみません」

「いや。俺も結構楽しかった、あまりああいう店には行かないからな。もし、食事をした後、店長が行きたいところがあれば付き合うが」

「本当ですか?」

「ああ。ついで、というか……女性の好みを知るってのは必要なスキルだろ」

 

 蜜さんはふふふ、と笑いながら運ばれてきたアイスティーにミルクだけを落として飲んだ。


「店長じゃなくて、蜜って呼んでください」

「!」

「私だけ、ハルさんと呼んでいるのは変です」

「……変なのか?」

「はい、なんだか……気持ちが悪いです」


蜜さんはそう言って笑った。

俺の胸はキュウキュウ言いながら締め付けられらようだった。

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