第23話
さおりさんは何かを思い出したように蜜さんにに近づくとニヤリと笑った。
「モノクロの映画が始まるかもね?」
「!」
真っ赤になった蜜さんを見て俺は首をかしげる。
「ねえ、黒崎くんだっけ?」
「……はい」
「よろしくね」
「はい?」
「いろいろと」
「……いろいろ?」
蜜さんはさおりさんを美容室の方に押しながら俺に言った。
「早く行こう!」
クスクスと楽し気に笑ったさおりさんとわかれて、駅に向かって歩く。この道は猫には歩きにくい道だ。昼も夜も比較的自転車も歩行者も多い。俺達は滅多にここを通らなかったから、新鮮な景色にウキウキしていた。
蜜さんと並んで歩くなんて夢にも思わなかった。そう考えながら商店街を進んでいくと蜜さんが不意に足を止めた。
「ここ? 黒……ハルさんの家」
「……ああ、うん」
「品のいいおばあちゃまだったわよね、素敵な外国のお菓子とか沢山置いてあったなぁ」
中をチラリと見るとユキが陳列棚に品物を並べていた。積み上げられていた段ボールはもう殆んどなかった。
俺はぐっとドアにてをかけた。
「あ、すいません。まだ営業してなくて……ってハルさん!」
床を拭いていたレイがそう言って驚きながら顔をした。
「……悪い。俺が働かせてもらうことになった店の料理長」
「あっ! えっと二階堂蜜です、お兄様にはこれからお世話になるかと思います……このお店も……素敵ですね」
ユキとレイは顔を見合わせて微笑んだ。
「兄がお世話になります、妹のユキとです。こっちは婚約者のレイ。……お時間平気なら店のなか見ていってください。陳列もやっと終わったんで」
「本当に? でも、ご迷惑じゃ?」
「ふふっ、オープンしたら是非ともご贔屓に」
「ええ! もちろんそうさせて頂くわ! このケッパーなんてなかなか売ってないもの!」
「じゃあ、こっちのオイルサーディンとかもお好きかしら?」
蜜さんとユキが楽しげに話すのを見てレイが俺を覗き込んだ。
「ハルさん!顔がちょっとずつにやけてます」
「うそつけ」
「ほんとですよ……ふふ、なんか僕まで嬉しくなります」
店の窓の外に張り出した植木台のゼラニウムの鉢の間に1匹の猫が座って毛繕いを始めた。
「……新顔だな」
レイがそう言うと、蜜さんが聞いた。
「この辺りの猫さんと知り合い?」
「えーっと、知り合いというか」
「真っ黒でお月様みたいな綺麗な目をした猫、知ってる?」
レイは俺をチラリと見たあと頷いた。
「いつもうちのお店に来るんだけど、昨日は来なかったの、見かけた?」
「昨日……さあ」
「ふふふ、なんて……急に変なこと言ってごめんなさいね」
そう言って肩をすくめた。
「その、猫が……どうかしましたか?」
「え?」
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