第19話
チュンチュンというスズメの声が耳に届く。朝が来たのだろう。
でもまだ眠い……だけどパトロールに行かなくちゃいけない。この辺りのボスネコと言われる俺にはそれなりに責務があるのだ。
最近、壊された古い団地に住んでいた猫たちが餌場を荒らしたりしにやってくることもある。
餌場を守るのは大事な仕事だ。他の猫とケンカをして沢山ケガもしたし死にそうになったこともあった。
『猫はいいなぁ、いつも寝てて気楽だな』なんて言う言葉を時々聞くけど、人間が思っているほど御気楽極楽でもないのだ。
家猫だったら、そんな言葉もありかも知れない……いや。家猫だって、奴らなりに人間と上手く共存していくためにそれなりに気を使ったりして生きているのだ。
自由気ままな猫なんて言う印象を受けているが、もしかしたら俺たち猫の方が犬よりもよっぽど気を使っているかもしれない。
そんな事を思いながらぼんやりと目を開けると朝日が眩しかった。カーテンが風に揺れて見慣れない天井と柔らかい布団に驚いて飛び上がるように起きた。
「そう……だった」
布団の上に胡坐をかいて座る。人間の脚の構造は猫に比べて不便なんじゃないかと思う。
お日様に手をかざしてみる。握ったり、開いたりを繰り返して『指』の動きを眺めた。
「……レイ?」
丸くなってゴロゴロと寝ていたレイはもう布団にいなかった。
「……」
大きく伸びをする。やっぱり人間の体は機能性が悪い。
そういえば、昔、老猫が人間の体には206本の骨しかなくて、猫はだいたい240本の骨がある。だから猫の動きは人間よりも優れているんだと、ドヤ顔で言っていたのを思い出した。
俺の34本の骨はどこに行ったのだろうか?
人間の男の声の自分。
人間の体の自分。
夢のようで、夢じゃない。そんな出来事に安堵しながら部屋の中を見回す。ユキをかわいがってくれたおばあさんの趣味だったという部屋の家具は猫が爪をといではいけないような高価そうなものだった。
階段を降りていくと店でふたりは仲良く商品の陳列をしていた。
「早いな」
「あ! ハルさん! おはようございます」
「明後日オープンだから、忙しくて。……朝ご飯まだなの、どうする?」
ユキがそういいながらエプロンで手を拭いた。
「……そうか……俺は蜜さんとこに行くから手伝えないが、すまん。朝メシはいいよ……すぐに出かける」
「頑張って来てね。おにいちゃん?」
「……なんだか、それも慣れねぇ」
「あはは、ハルさん顔が赤いよ、すぐに慣れるよ!」
「レイは慣れすぎなんだ」
「あはは。そうかな」
キッチンに行ってお茶をのみ身支度を調えて猫町洋食店に向かう。毎朝パトロールしていた道が全く違って見えるのは目線だけではないだろう。
店につくと表の鍵がかかっていた。
裏に回ると昨日聞いた暗証番号をいれてドアを開けて中に入って厨房の電気をつけた。
ダウンライトがついている事に気がついてフロアに出ると、蜜さんがカウンターでうつ伏せて寝ていた。
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