3:セコンド・ピアット~蜜のアジのアクアパッツァ
第18話
3:セコンド・ピアット~蜜のアジのアクアパッツァ
「すごいねハルさん!」
「お月様の導きだわ!」
俺がアイスクリームを買って戻ると、ふたりは遅くて心配したと言いながらも情事を楽しんだ後のようだった。遅くて都合がよかったろ? と、思いながらも野暮な事は言わずにさっきまでの出来事を伝えた。
ふたりは手を取り合って喜んでくれた。
「さっきユキに飲まされたカプセルのおかげなのか、字も書けたし……料理を作ることもできた、人間みたいに会話もできた」
「そうよ、なれるまでは不思議かもしれないけれど大丈夫よ」
「魔法ってすごいな」
レイはワクワクとした表情で俺とユキを交互に見る。
「魔法ねぇ……ほんと何時間か前まで猫だったんだぞ、これって夢なんじゃねえか?」
俺がそう言うとユキは微笑んだ。
「私も最初は戸惑ったけれど……大丈夫」
「……」
「そうだよ、ハルさん。猫っぽいところが出ちゃうのもあると思うけどさ、頑張ろうよ」
「はは、そうだな」
俺とレイは、風呂というものに入らされて死ぬんじゃないかと思ったが快適だったのは体が人間だからなのだと結論に至った。
レイは布団に横になるとあっという間に寝てしまい、俺はしばらく窓の外の月を眺めていた。
「……ありがとう」
魔女猫の言った通りに、月への感謝を忘れないようにしようと思いながらふっとレイを見るとキジトラの猫の姿に戻っていた。
「!」
俺は口を押えてそっと部屋を出るとユキの部屋のドアをノックした。指先がガラにもなく震えていた。
「どうしたの? ハルさ……おにいちゃん」
「……レイが……猫に戻った」
「……ああ、うん……そうかもね」
ユキは落ち着いた様子で頷いた。
「魔法が解けたのか?」
「大丈夫よ。まだ月の欠片も溜まっていないしでしょ。だからよ」
「月の欠片って……このピアスの石の事か」
「そう、この石がお月様と同じ色になったら完璧な人間になれるって聞いたでしょ? 寝ている時は意思が遮断されるじゃない。だから、猫に戻るのよ……月の欠片が溜まってくれば寝ている間でも人間の姿でいられるわ」
「……そう、なのか」
ユキは俺とレイの部屋のドアをそっと開けて中を覗くと微笑んだ。
「ふふふ。だから、いい人ができても、まだどこか外で寝てしまったりお泊りなんて……まだダメよ? おにいちゃん」
クスっと笑ったユキは、猫としても綺麗な猫だったが人間になったも美しいと思った。
蜜さんとは違う。美しさだった。
まだ脳味噌が8割以上猫の俺には、蜜さんとユキの美しさの違いを説明できるはずもなかったが、蜜さんの笑った顔には何か特別なものがあるように思っていた。
部屋に戻り大きな布団の真ん中で丸まって眠るレイにそっと触れてみる。ふにゃりと言うのか、何とも言いようのない感触の毛に驚いた。
「猫って……柔らかいな……って俺も猫だけど」
自分で突っ込んで少しだけ笑って横になった。目が覚めてもちゃんと人間でいるだろうか? そんな不安を思いながら目を閉じた。
「お月様……おやすみ。ありがとう」
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