第10話
ユキはひとしきり話すと思い出したように、そうそう。といいながら、ユキは俺に住民票と書かれた紙と黒猫:ハル経歴と書かれた分厚い紙の束を見せた。
「これ、魔女猫の使いの半猫が持って来たのよ。魔女猫から聞いたと思うけどね。ハルさんは私の兄として生きてもらうわ。そして人間界で生きていくために諸々必要な物はそろってるわ。寝泊まりはこの2階で、奥が私の部屋よ、手前を使ってね」
「ユキ。俺は?」
「レイは私と同じ部屋でいいんじゃない?」
「……まだ結婚もしてないのにか?」
俺がそう言うとレイは嬉しそうに笑った。
「ハルさん、本当のお兄ちゃんみたいだ!」
「ふふふ。じゃあ、レイとハルさんは同じ部屋を使って頂戴?」
「え~」
「そうしとけ。人間なんだぞ。猫とは違うんだ」
「……わかったぁ」
ションボリとしたレイを見てクスクスと笑ったユキは、魔女猫からという紙袋からカプセルを取り出すと紙束をその中に押し込み始めた。
「ユキ? 何してるの?」
「カプセルに入れるのよ」
「いや。無理だろ?」
「入るって言ってたもの」
「はあ? どう見ても無理だろ?」
「ううん。入るって」
ぎゅううう! っと無理矢理入れていくと、魔女猫の魔法が効いているのか小さなカプセルの中に大量の紙は吸い込まれていった。
「すげえな」
「ほんと、すごい」
「入ったわ!」
ユキは俺にそれを飲み込めと言った。レイと一緒に恐る恐るそれをお茶で流し込んだが、何かが変わった様子もなかった。
時計の針は12時を回ったところだった。
風呂に入って寝ると言うユキに、少しだけ散歩をしてくると言うとお金というものを渡してきた。
「じゃあ、ハルさん。コンビニ行ってアイスクリーム買ってきてよ。バニラ」
「アイスクリーム」
「知ってるわよね?」
「知ってる……オマエ、もうすっかり人間なんだな」
「……すぐに慣れるわよ、そもそもハルさんのスキルは料理人なんでしょ?」
「みたいだな」
「じゃあ、コンビニ散策でもしてきてよ」
カギというものをもって外に出る。
お金もカギも初めて触るものなのに、前からちゃんと知ってような感覚だった。
「レイと2人っきりになりたかったって事か」
ふう、っとため息をつく。
ポケットの中にタバコが入っているのに気が付いた。
「タバコ?」
猫は煙草の匂いを嫌いなヤツもいるけれど、どういう嗜好か俺はそんなに嫌いじゃなかった。
煙草を咥えて火を点けて吸ってみる。
紫煙が月に吸い込まれるように立ち上った。
「お月様。見守ってくれよ?」
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