第9話
「……これが、俺か」
レイと対照的な容姿だった。
短髪で黒髪で不機嫌そうな顔をした俺を見てレイは笑った。
「どうしたんですか?」
「……変な感じだな」
「そうですね。でも、料理人っぽいです」
「……そうか。そんな感じには見える……かな」
俺たちは二本の脚で歩いてユキの店まで行った。
「ここの垣根をくぐったら近道なのにな」
「そうですね、あの塀を飛び越えたら信号待ちとかしなくていいのに」
顔を見合わせて笑った。
笑うという事が新鮮だった。猫だけでなく動物は表情が人間のようには変わらないからだ。
「待ってたのよ、ハルさん、レイ!」
ユキは安心したような笑顔を浮かべて俺を出迎えてくれた。
「どうぞ、座って」
店の奥の居住スペースらしき部屋に通されると、俺はキョロキョロとしながら椅子に座った。
「レイは想像通りだけど、ハルさんもなかなかの美男子だったのね。猫の時も美猫ではあったけど、あちこち怪我してたし。ボスだから怖く見えたけど」
「美男子って……その基準がわからねえな」
「ふふふ。そういうつんとした感じもね、人間の女は嫌いじゃないのよ、聞いたことあるでしょ? ツンデレって言葉」
「つんでれ?」
「ふふふ。わからないかしら? まあ、そういう方がハルさんらしいか」
レイは嬉しそうにユキの隣に座った。
「ユキとハルさんは兄妹になったんだって、すごいな」
「ふふふ、そうね。私とレイが結婚したらレイもハルさんと兄弟だわ」
「! うん、すごいね」
「レイったら、本当にハルさんが好きなのね」
ユキはそう言って笑うと冷たいお茶をいれたグラスを俺に渡した。
そう言ってユキは夢を話した。
ユキは輸入食品店をやっていたおばあさんの所に半ノラみたいな状態で貰われたのだ。
集会にやってくるときには、チーズやウインナーを持って来た。
おばあさんは、元猫だったという。
「おばあさんが亡くなって一度は閉店したんだけど、この店を改装してやろうって思ったのも。おばあさんが残してくれたものを守らなきゃって思ったのもあるし……ここの店をやりながら、ノラがいなくなるようにボランティアとかやりたいのよ。おばあさんがそうだったみたいに」
おばあさんは猫の役所でここの土地や店の権利を全部ユキに譲ったのだと言う。
俺は、ユキの言葉を聞いて蜜さんの事を思い出した。
「蜜さんも。先代が残してくれた店って言ってた」
「そうね、あの洋食屋さんは、この町のみんなが愛してるっておばあさんも言ってたもの」
「……そうだな」
猫町商店街の小さな洋食店。
蜜さんが守ろうとしている場所を、俺も一緒に守る事が出来るだろうか?
そう考えながらユキの話を聞いた。
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