第3話
俺が知ってる?
いったい誰だろうかと思いながらレイについていくと、さっき通り過ぎた輸入食品屋の裏に回ってドアの下についているペットドアをくぐった。
俺も恐る恐るその小さなドアをくぐる。
中は外国の文字の箱や瓶でいっぱいだった。
「あら。レイ」
すらりとした美人はレイを見て嬉しそうに微笑んだ。
「ハルさん、僕。人間にしてもらおうかと思ってるんです」
「え!」
オレは驚いておかしな方向から声をあげた。
「実は、彼女ユキなんです」
「ユキって、あのユキか?」
ユキというのは、レイと同じ時期にあの路地に残ったうちの一匹だった。
レイは5匹で生まれたが、生まれてすぐに2匹が拾われて1匹は車に撥ねられた。
「はい。一緒に店をやろうかと思ってます」
「やろうかって」
レイは真剣なまなざしでオレを見た。
どうりでユキがあの路地から姿を消した後も悲しむわけでもなく探すわけでもなく淡々と「幸せにしてますよ。きっと」なんて言っていたのだと、レイの言動に納得がいった。
「ハルさん。ご無沙汰してます。ごめんなさいね、何も言わずに路地を出て行ってしまって」
「いや……っていうか、俺の言葉分かるのか? もう人間なのに」
ユキは頷いた。
「わかります。でも、スイッチがあるみたいです。意識を集中すると、ちゃんと言葉として聞こえます。でも、今普通に生活をしていると、にゃあという鳴き声でしか聞こえてきません」
「そう、なのか」
「完全な人間になると、仲間の声は聞こえなくなってしまうそうです。それって、少し寂しい気もしますが」
「……」
俺はユキを見上げた。
「ユキは、あの魔女と取引をしたんです。ボクも、明日の満月に魔女の家に行こうと思ってます」
「レイ。本気でいってるのか? それとも俺をからかってるのか」
「本気ですよ」
「……そうか」
レイは小さく頷いて続けた。
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