第11話

「素敵なブックマーカー! ありがとうございます」


男は頬を染めた。


「お礼が言いたかったので、お会いできてよかったです」


「いや。そんなお礼を言われるほどの……」


「ううん。すごく素敵でした……何ていうか、純文学みたいな感じで」


「純……文学……あは。うん、いいなその響き」


「……SNSとかメールとかが当たり前の時代に……粋で嬉しかったです」


「……」


「なんか変なこと言ってすみません」


「ううん! 全然」


短い沈黙があり、男は嬉しそうに何度も頷いた。ふたりはしばらくの間、互いに手元の本に視線を落した。


「カフェオレのおかわりは?」


「あ、えっと」


店長の蜜がそう声をかけると、リカは腕時計に目をやった。


「あ! もうこんな時間!」


「え」


男も時計を見た。


「わ、ほんとだ」男は立ち上がってレジに向くとピタリと足を止めて振り返った。


「……相席、ありがとうございました」


「い、いいえ!」


フニャリと笑う男に一瞬見惚れた。

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