第12話

「1500円です」


「ん? そんなはずないよね?」


「さっきの相席の彼がカフェオレの分は心ばかりのお礼だからって」


「ええっ! 蜜さん! 何で教えてくれないの? 申し訳ないよぉ」


「てっきり知ってるのかと思ってたよ」


「……知らなかったぁ、御馳走になるような事してないのにぃ」


リカは肩を落とす。


「いいじゃない ? ね。ハルさん」


カウンターで老人の相手をしていたコックのハルは頷いた。


「ああ」


「あの方、よくおみえになるんですか?」


蜜とハルは顔を見合わせた。


「そうね、時々くるわよ、来るときは何日も続けてきたり、来ないときはパタッっと」


「ああ、そうだな……何だかこの前まで舞台の仕事が忙しくて来なかったから……すごく久しぶりじゃないか?」


「うん、そうね」


蜜とハルのやり取りを聞きながら、この店に来ればまた会うことが出来るだろうか? と考えた。


あのメモの通りだ。


『出会い』はあったけれど、名前すら聞けていない自分はチャンスを無駄にする使えない女だと落胆していた。


そもそも、あの缶詰は何なのだろうか?


返金されたりメモが湧いてくる……ともかく不思議な缶詰であることに違いはない。


奇妙奇天烈とはこの事だ。夢を見ているような気分で空を見上げた。


そういえば、あの洋食店も可笑しな店だ。

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