第9話

「今日は奥の席でもいい?」


「ええ」


「注文はいつもので?」


「うん、お願いします! それから帰りにロールケーキを1本お土産にしたいの、あるかしら?」


「あるわよ」


「よかった!」


リカは店の奥の席で本を開いた。


 運ばれてきたカフェオレを飲んで店内を見回すと、この時間帯にしては珍しく混んでいた。


カウンターの定位置に座る老人は、新聞を読み終えると店員に『マホコさんアレ』と言う。アレとはトーストの事だ。


リカも隣に座った時に『マホコさん』と言われたことがある。若い女は全部『マホコさん』になってしまう。


リカは勝手に、初恋の人が『マホコさん』なんだろうと思っていた。


向いのカップルは付き合いはじめだろうか。恥ずかしそうな姿はうらやましいものだ。


そんな光景を楽しみながら本に視線を戻すと、店長の蜜が言った。


「リカちゃん。悪いけど、相席お願いしてもいい?」


「え? はい」


本に視線を落して、相席の人物を迎えた。

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