第8話

携帯にメールが入る。

例の本が返却されたというメールだ。


「今日は? 駅ビルのタイ料理店行かない?」


「あ、行く!」


「ワタシはパス。この前の合コンのプチデブ歯医者とディナー」


「マジで? プチデブの友達紹介してよ」


「おっけー!」


「リカは? 」


「パス」


「デート?」


「そんなんじゃないわよ」


仕事後に図書館に寄って家に戻ると、昨日の残りのクラムチャウダーとコンビニの弁当で夕飯を済ませ、風呂も済ませて準備万端で本を開いた。


「ブックマーカー?」


表紙を開けると猫のシルエットのブックマーカーが挟まっていた。


裏面に上手ではないけれど丁寧な文字で


『先に貸してくれてありがとう。ささやかなプレゼントです』


と書かれていた。


名前のない小さな手紙にきゅんとした。


メールや電話で用件を伝える事が当たり前の時代に、こんなアナログな方法でお礼をしてきた男にもう一度会いたいと思った。


図書館に行けば、また会えるだろうか?




だが、平々凡々な毎日を繰り返し週末がやって来る。

あのミステリー小説はもう読み終わる。


リカはコルクボードを見た。


友達の家に行く前に行きつけの洋食店で続きを読もう。そう考えながら支度を始めた。

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