第14話

溢れ出てくる涙を止めることができなかった。





白昼夢のような出来事だ。




彼は庭に生ったというよい香りのする果実を指さしながら、嬉しそうに見せると



皆に見つからないようにお気に入りの木の上でその果物を頬張ったのだ。



通りかかった宮廷の女に見つかって、そんなところでお行儀が悪いと叱られ

そして先ほどの件につながったのだった。




「やっぱり、あってたんだ」



泣き顔で上げると、ノゾムくんはキラキラとした笑顔を向けた。



「ずっと前? 会ってたんだ」


「どこでとか、いつとか聞かないんですか?」


「うーん。オレ難しいことは、よくわかんないけどさ。魂とか? なんかそういうのでよくない?」



「!」


「きっと、そういう言葉とかじゃ言い切れない世界があってちゃんと繋がってるんだ」


「はい。そうですね」



彼は袖口で私の頬を拭うと笑った。



「いつか、話聞かせてよ」


「え?」


「ワクワクする。そういうの」


「あはは。うん。はい!」



無邪気に微笑んだノゾムくんは、うんうんと頷いた。


満面の笑みで笑い返すと棒を振り回すクマに視線を移した。



「似てます。夢の中のカレはあんな感じですよ」


「えへへ。うん。似てるかも、オレあんな感じ」



カレがクマを指差した。



「あはは」


「リナちゃん」


「え!」


「また。会える?」


「! も、勿論です」


「そか」



輪廻転生、永劫回帰。



そういうものが、きっとあるのだろう。



ものすごい時間を越えて、また会えたのだ。



思いや願いはなくなったり消えたりはしない。



いつかまた会えると、光の海のなかで誓って必ずどこかへ繋がっているのかもしれないと、素直に受け止めることができたのだ。


胸は熱くて呼吸をするのもやっとのはずなのに、穏やかで凪いでいる海のようだった。




「ごめんなさい」


「もう、いいよ……だって、ほら、会えた」



どこか遠くの方で声がする。




日が暮れた頃、指先だけをそっと繋いで集合場所に現れた私たちは

しばらくのあいだ、みんなに冷やかされネタにされるのだった。



あの日のように影が伸びる。



もう、離れない。



離さない。




泡末のような夢はもう見ることはなかった。

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泡末の夢 成宮まりい @marie-7g

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