第11話
私たちは、人目を忍んで恋文を裏木戸の近くの桃の木にはさみ。
逢瀬を重ねるようになった。
桃の甘い香りのする木々の間で、何度も何度も愛し合った。
「人が来てしまいます」
「来ても構わんさ」
「ああ、そんなに……ああ」
「そんなに、なんだ」
「意地悪な方……どうか離さないでくださいませ」
彼にしがみつくように口づけをして、離れがたい時間を過ごした。
私を気に入っている兵士がいるという噂が広まり、呉夫人はお怒りになるかと思いきや大変喜ばれて私に言った。
「オマエは貧しい家の出だけれど器量がいいからね、連れてきて正解だったよ。兵の嫁には家柄があるには越したことはないが頭がいい女はダメだ。女が政に口を出したら国をだめにするのよ。オマエはお飾りでいればいい」
バカにされた気分だったが、その日のうちに私は呉夫人の遠い親戚の娘だという事にされて彼のいる屋敷に移り住んだ。
そこでの仕事は、兵の宴の相手だった。
「オマエは器量もいいが、声もいい! 歌え! よい声だ!」
「史官様が誉めておったぞ、琵琶のように美しい声だと」
そういって、里の歌を歌うたびに兵たちは喜んで彼も鼻高々に言った。
「彼女は、僕が妾うのですから手をださないでくださいよ」
みな、酒と沢山のご馳走に囲まれて笑った。
宮廷に移った私は、以前よりも堂々と彼と会うことが出来るようになった。
ある時、彼と桃の木に登って熟れ始めた桃を頬張った。
教育係の大公婦人に怒られて、ふたりで顔を見合わせて笑う。そんな穏やかでな静かな日々がずっと続くと信じて疑わなかった。
でも、あれはある日突然やってきた。
赤壁の戦いの直後だった。
孟徳という人の名と恐ろしい噂しか知らぬ宮廷の女たちは怯えて、赤壁のように火で攻めらるのではないかというものがいた。
火には注意するようにと、女たちも口うるさく言われていた矢先。
噂はまことになり、どこからか火矢が放たれた。
屋敷は瞬く間に火に包まれたのだった。
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