第8話

「ど、どうしたの?」


「いやさ、相葉が女の子にこんなことを言うのってないから」


「ない?」


「そうなんだよ! リナちゃんに、一目惚れでもしたのか?」



ワチャワチャと弄られる彼は困ったように頭をかいてニコニコと笑って言った。



「本当に、前にどっかで会ったような気がしたんだよ」



ふーん。と余り聞 く耳を持たない返事をした皆はマップを広げていた。



「よし、じゃあ。12時半にこのツリーテラスハウスで集合。そんで昼飯にしよう」


「と、言うことで解散ね!」



ポツン、と残されてしまった私と彼は顔を来て見合わせた。


「ひどい」


「あはは! ひどいなぁ」


「……意味不明だし」


 私が入園ゲートを見て大きなため息をつくと、いつのまにか入園券を買ってきていた彼が笑いながら渡した。



「怒ってもしょうがない! 俺とじゃ不服かも知れないけどさ、かわいいやつらに会いに行こう!」


「ふ、不服なんて!」



彼はふふふっと笑って私を見下ろした。



「……す、すみません。そんな顔をしてましたか?」



「ううん、でも……困ったなぁって顔かな? あ、俺、相葉です。アイバノゾムと言います」



ペコンと丁寧に頭を下げた彼に思わず顔が緩む。



「えっと……リナちゃん? だったよね」


「あ、はい!」


「行こう?」


「はい」



彼は勝手知ったると言う様子で園内を進んでいった。


そして、その区画ごとにガイドのような説明をして微笑んだ。



「あ、相葉さんは、動物好きなんですか?」


「相葉さんなんて、いいよ。ノゾムって呼んで?」


「えっ」



ニコニコとする彼の笑顔はほっこりと心を温かくする。



「ノゾム……くん?」


満足そうに微笑むと柵の向こうのキリンを眺めた。



「獣医学部なんだ、卒業したら獣医に……って無事に卒業できたらの話だけどね」



肩をすくめて笑った彼は入り口の看板のツキノワグマのツッキーくんに似ているな、と思って少しだけ笑った。



「あ、やっと笑ってくれた。へへ、ちょっと安心した。俺」


「えっ」


「リナちゃんは笑ってる顔の方がいいよ、なんか……元気になる。うん、そう。リナちゃんの笑った顔見ると、元気になる」

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