第14話

「……俺は構わんが、散歩の相手としては役不足かもしれないな」


「なぜです?」


「……俺は、愉快な話や気の利いた冗談のひとつも言えぬからな、ご婦人のお相手できるかどうか」


リリーはクスクスと笑った。



「ジュリアス様ったら、何を気になさってるの? わたくし、愉快なお話などが聞きたいわけではありませんわ。……明日、お体の調子が良ければ是非ご一緒してくださいませね」


「ああ……わかった」


「でわ……後程、お食事と清拭に参りますわね」


「せいしき?」


「お体を拭かせて頂きます。傷の手当ても含めて」



彼女がそう言って部屋を出て行くとサムはやっと呼吸を思い出したと、言わんばかりに笑い出した。



あまりに大笑いをするので俺は少しムッとしてサムを見た。



「なんだよ、何だよ! ジェイったら顔がだらしないぞ! 暗黒の騎兵隊、魔王のジュリアスの名が泣くぞ」



「変な通り名はよしてくれ、それに……演習と王の護衛なんかの仕事が主たるで、戦はもうせぬのだ。あの重たい甲冑などつけなくてよいのだぞ、暗黒と魔王ともおさらばだ」


サムはふーんと背伸びをしながら言った。



「そうか、そうだよね。平和はいい事なんだろうけどさ、なんだかつまんないなぁ、ボク、戦場のピーンとした空気とかビリビリする人の気みたいなもの結構好きだったんだけどな。人の殺気や神経の先まで判るような」


「サムは悪趣味だな」


「やだなぁ、耽美主義なのさ。デカダンスって言ってくれてもいいけどさ、それだと堕落した感じがするから、やっぱり耽美主義ってことさ」


「耽美ねぇ……そりゃ高尚な趣味だな、戦がなくなって残念だったな」


俺が少しあきれ気味に言ったのを面白がっているようだった。


「じゃあこれからは、軍服生活か……まぁ甲冑は確かに重いもんな。ボクはあんな重たい上に綺麗じゃない物ゴメンだから、まだ軍服のほうがいいよ……そうだ! ねえ、ジェイ」


「なんだよ、急に大きな声を出して」



「戦に行かないなら、昔みたいに髪を長くしてボクとお揃いにしなよ」


「え」


「昔はさ同じだったじゃないか、お揃いのリボンで束ねてさ。庭で遊んだりしたろ?」

「いつの話だ……まったく」

「ボク、悲しかったんだよ? ジェイが髪を短く刈ってしまった日。遠くに行ってしまったみたいな気がして」



サラリとかきあげた美しい金髪に日の光が絡んで何ともいえない妖しさを吐き出す。




一瞬見とれそうになって、はっとすると答えた。

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