2 月と太陽

第13話


「足、痛みますか?」


「少し……な。だが歩くのには支障はなさそうだ」


「そうですか」



俺は天気の良い空がうらめしく、窓の外を見上げるようにして言った。



「寝てばかりいても体が鈍りそうでな……部屋で剣を振る真似事をして何か物を壊さないかとヒヤヒヤしている」



サムはクスクスと笑った。



「そう、サムが壊さないかとって言ってもいいんだよ? 優しいなぁジェイは」



俺はそんなサムのセリフを聞いて、まだ子供だった頃に母が嫁入り道具として持ってきた美しい花瓶を割ってサムのせいにして酷く怒られたのを思い出した。



サムは必死になって俺を庇ってくれたけれど、両親は俺を長いこと座り心地の悪いピアノの椅子に座らせて正論を説いたのだった。



今となっては、両親が言わんとしていた事がよくわかる。



それからは、務めてサムや誰か他人のせいにはしないようにしていたが自分のなかで諦めたり悔やんだりする時は免罪符のようにサムに理由を被せたりしていたのだ。俺は最低な女々しい男だ。



「あの、ジュリアス様……よければ明日にでもお庭を散歩しませんか? 今日ゆるりとお部屋で養生なさって、明日からリハビリと言う事でいかがかしら?」 



俺は少し驚いた。


リリーは俺の容姿が恐ろしくないのだろうか? 


と思った。



サムに比べると貴族の子息というよりは、軍人というカテゴリーのほうがしっくりくる顔だろうし、戦を経て英雄などと言われているが、単に他の兵より体も大きく力があり、剣にたけていたというだけだろう。


要は、たくさんの人の血で汚れた体だということだ。



虫も殺したことがないような細い指をチラリと見て、小さな溜め息をこぼした。

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