第12話

そう言って笑うと、リリーに向き直った。


「リリー。明日の晩には帰るからね。留守を頼むよ。何かあったらビルにね。ジュリアスくんの食欲があれば、給仕に言って粥かオートミールを。明日の晩にはささやかな晩餐をご一緒にね。……ジュリアスくん、押しつけるようで申し訳ないが、リリーの話し相手にでもなってやっておくれ」


「お心遣い感謝します」



ドクターピーターが部屋を出ると、サムは「ボクもおじゃまみたいだね」といいながら、壁に向いて昼寝を始めた。


いつもの狸寝入りだろう、と思いながらリリーに視線を向ける。



「父が……すみません、わたくし友人もたくさんいるわけではありませんし。本ばかり読んでいるので皆さん空想家なんて陰でバカにしてますのよ、まあ、言いたい方はどうぞ、と、いう感じですけれど」


ふふと自嘲気味に笑ったリリーは、俺の脚に巻かれた包帯のズレを直すように途中まで解いた。


「本を読んだり、空想をするのは悪いことではない。それをバカにするご婦人のほうが、頭の中身が気の毒な事になっておられるのだろう……気に病む必要はないな」


「頭の中身が……気の毒。ふふふ、ジュリアス様ったらステキだわ」


楽しそうに笑いながら俺を見上げた彼女の瞳にドキリとする。


オリーブ色の瞳に吸い込まれてしまうのではないかと思ったのだった。

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