第11話

失笑気味に言うとサムはおどけてみせた。「あはは! ジェイは猛犬だから噛みつかれるよ、お医者のおじさん気をつけて」


ワンワンと言いながら、ベッドで転がるサムを軽く無視しながら医師である男に視線を向けると、男は人の良さそうな顔で頷いた。



「私も、似たようなものだ。若い頃、軍医をしていたんだよ。だが、治っても治っても死に行かせる為に傷を治すのがイヤになってね、逃げたのだよ、そしてこんな田舎で細々と医者をしているわけだ……しかし、ようやく戦が落ち着いてよかったよ。未来ある命を無駄に失わなくて済む」


ドクターピーターはリリーが淹れたお茶を飲みながら小さくため息をつき、少し考えると顔をあげて言った。


「そう言えばトルメインといったかね?」


「はい」


「もしかして、トルメイン大将の御子息か?」


「……父をご存知ですか? わたしは三男で末っ子になります」


「ほうほう……お父上とは、いくつも国を跨いだ仲だ。そうか、お元気かね?」


「なんと。そうでしたか……ええ、お陰様で」


「世間とは狭いものだ」



そうか、それはよかった。と、大きく頷いてピーターは立ち上がった。



「急ぎの用があるなら引き止めはしないが、医者としては……しばしの療養を薦めるね、脚を軽く捻っているようだし腹部を少し打撲したようだ。それに長い戦のせいだろうね。体調に支障があるのでは?」


「でも、いつまでもお世話になるわけにはいきません、街までの馬車など呼んで頂ければすぐにでもお暇するべきかと」


「いやいや、かまわんよ、大したもてなしもできんが、養生していってくれたまえ。トルメイン大将には借りもあるしねえ。心配なら、私はこれから街に行くんだトルメイン大将にお会いしてこようじゃないか。我が家に身を寄せていると分かればご家族も安心であろう」


「何から何まで申し訳ありません」


「遠慮はいらんよ。必ず伝えよう」

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