第10話

「すまんが、もう一杯貰えるだろうか?」


「もちろんですわ」


「リリー殿は、良い味覚をしておられる、いや鼻も良いのだろうな、このお茶は飲んだ後の抜けが実にいい」


「まあ! そんなに誉めて頂いて光栄ですわ。友人とのお茶会でオリジナルブレンドというのが流行しておりますの、この前のブレンドは大失敗でしたのよ、そのお茶でなくてよかったわ」



肩をすくめてリリーは笑った、彼女の笑みは様々な国で見たどの女の微笑より美しく品があった。


そして、野の花のように可憐だった。



俺の心の機微に気がついているサムはニヤニヤと下品な笑みを口元に作って寝転んだまま観察を続けたいる。


なんてヤツだ、きっとリリーが出ていった瞬間に大笑いしながらからかうだろう。



ガチャンとドアが開いて、スカーフタイをした男が入ってきた。


白髪で品のよい笑みを浮かべた男はベストのポケットにハンカチをしまいながら言った。


「やあ、気分はどうかね? リリーから目が覚めたと聞いてね、安心したよ……うん顔色は良さそうだな……失礼するよ」



そう言って男は俺の瞼を下げる。



「うん、大丈夫そうだな……しかし驚いたよ、魚を釣りに行って鳥や野ネズミを捕獲したことはあるが、まさか人間が釣れるとはね」



男はリリーからお茶のカップを受け取ると笑った。



「おっと、失礼。わたしはリリーの父でね、ピーターだ、ピーター・グランディア。貴族称号をもっているが、しがない田舎の町医者だ」


「助けていただいたようで、本当にご迷惑をおかけしました。そして感謝しております。俺……わたしは、ジュリアスと申します。ジュリアス、トルメインと申します。都の外れに定住しております」


「都の、外れ。そうか、では大して流されてもいないな。馬なら30分もかからん距離だ……ところでジュリアスくん。着ておられた軍服に体つきやヘアスタイルから察するに、そうだな……お若いのになかなかの位ではないかね?」


「そんな。ただの…………軍の犬ですよ」

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