第9話
「うん、いい香り。美味しそうだね。ジェイ?」
サムは紅茶の香りを大きく吸い込んで言った。
俺は「ありがとう」と小さく礼を伝えるとお茶を口に運んだ。
適度な温度のお茶はくっつきそうだった食道をゆっくりとはがしていき、胃の中を回るように温めた。
思わず、ほう。と、安堵の息が零れる。
「うん。旨いお茶だ、このように旨いお茶を飲んだのは久しい」
「まぁ、ウフフ……ジュリアス様ったら大袈裟ですわ。2日も飲まず食わずで眠っていたんですもの、お茶でなく白湯だとしても温かいものは沁みますわね」
「2日? 2日とは……俺はそんなにも眠っていたのか?」
「ええ、正確には1日半ほどですけど、ここへお連れした時はぼんやりと起きてらして、ウワゴトを」
「譫言」
「やめろ。と、仰ってすぐ眠られてしまったのです」
サムは笑いながら俺の横を通り過ぎて囁いた。
「ボクは何もしてないよ」
俺はリリーを見て少し笑うと、お茶を飲み干した。
サムは相変わらず落ち着きなく部屋の中を散策するように歩き回ってクッションの下やカーテンの隙間を覗いたりしている。
いったいそこに何があると思っているのだ?
ご婦人の前で不躾だと怒ろうにも、リリーを怖がらせてしまわないかと何も言えない他所行の顔をした俺がいた。
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