第12話

「この紙を渡すから、326番に必要なものがあったらこれに書いて缶詰の中に入れておいて。すぐに取り出せるようにするから、缶はタイムリミットになったら回収に行くからさ、それまで誰かに捨てられたりしないように花とか鉛筆とか入れておくといいよ」


「そんなもの入れていいの?」


「うん。この紙以外の物質はこっちに転送されないから」


「転送って、はぁ……もう、何が何だか。理解ができなくなってきたわ」


「大丈夫、大丈夫。あ。わからないことや、ボクに用事がある時も紙に書いて入れて、すぐ来るから」


「ああ。うん。わかったわ」



 ルリは頭を振って、溜息交じりに返事をした。


 夢なのか現実なのか、まともに受け答えをしているのがというか、あれこれと考えるのがバカバカしくなってくるほどアネモネはノー天気に笑った。


「ところで、私。アナタに名乗ったかしら?」


「ううん。でも、ボクは……ボクらは、何でも知ってるよ」


「……風が選んだから?」


「ご名答! 物分かり? 物覚え? が、いいね。瑠璃」


「それって褒められてるのかしら?」


「勿論」


「なんだか、まともに思考するのが無駄みたいでバカバカしくなってきたわ」


「そうさ、この世界なんて無駄だらけなんだよ。それが瑠璃がいる場所。でも、無駄だと思っていることが実はとっても意味がある。無駄なことなんて、本当は1個もないんだよ」



「……」


「さて、無駄な説明は終り。326番の時間が勿体ないからね」



アネモネはそう言ってパチリとウインクをしてみせた。



どこか意識の遠い所か鼓膜のもっと奥の方で、アネモネが笑う。



「じゃあね。瑠璃、また近々会う日まで」



 ルリは幼い頃に家族で行った、クリスマスマーケットの夢を見た。



7つ上の兄とオーナメントを2つずつ買ってもらってベッドサイドに吊るして寝た夢だ。


あの、天使のオーナメントはどこにしまったのだろう。


夢の中でそんな事を考えて、はっと気が付くときちんとパジャマを着てベッドで寝ていた。



「夢……よね」

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