第11話

「ボクらの世界には、こっちの世界で言うなんとかバンクっていうヤツと同じシステムの場所があるんだ」


瑠璃はアイバンクや献血なんかのシステムを浮かべた。



「その無数にある引き出しの番号が、缶詰に書いてあった文字。何の引き出しかっていうと、こっちの世界の言葉でいう所の……『時間』だね。時間の引き出しだよ」



「じ。時間?」



「そう、まあ、この世の中にはまだ残りの時間があるって言うのに、どういうわけか異世界に迷い込んでくる人が時々いたりするんだ」


アネモネは人差し指をピンと立ててみせた。


「そういう人は、天界でも魔界でも受け入れに困る。だって本来まだ生きているべき人だからね。でも迷い込んでしまった以上、それなりの対処が必要となる。最終選択とでもいうのかな、その時間をボクらの世界でお預かりをするってわけ」


 自室だったはずが巨大なサイロのような部屋の中でいくつもある引き出しのついた壁に囲まれた空間にいた。


不思議と恐怖や不安はなく、何か満ち足りたような感覚に似た気分だった。



「時間って? じゃあ、もう亡くなってる人って事なの? ここにあるのは寿命?」


「いや。生きてるよ? だから、厄介なんだよね。寿命ってシステムとも微妙に違うっていうか、それを説明するのはものすごく難しいな。亡くなっていたら天界か魔界が受け入れてくれるからね。まぁ、引き出しの中の時間それぞれにタイムリミットはあるんだけどね。だからボクらが請け負って仕事をしてるってわけで、この説明長くなるけど必要?」



アネモネは面倒くさいな、という顔をしてルリを覗き込んだ。


「はぁ。……説明は結構よ。聞いてもきっと理解できないわ」


「ふふ、だと思うよ」


アネモネは得意気な顔をしてみせた。


ルリは膨大な数の引き出しを見回し缶に書かれていたのと同じ326という数字を見つける。


「それで、私は何をすればいいの? わからないわ」


「何を。うーん、そうだな。瑠璃は何もしなくていいというか、するのは326番だからね。まあ、瑠璃の役に立つってのが326番に与えられたクエストって感じかな」


「そ、そのクエストをクリアしたら、どうなるの?」


「缶詰の中に帰るか、消えるか。実体をなすか。ボクにもわからないよ」


「ちょ! そんな、無責任な! 私にそんな誰かの人生を左右するようなお手伝いなんてできないわ」


「あははは。大袈裟だな。そんな重たいものじゃないよ。決めるのは、326番だからね」



ルリは326番の引き出しを見上げた。

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