2、缶詰

第10話

「さて、寝るとしましょうか」



大きな独り言を言って立ち上がろうとした時だった。


ブォンという、モーターのような機械的な音がした。


「?」


音のした先を見ると缶詰の中から、映像が浮かび上がってきた。



「な。なに?」



ルリは少し缶を指先で突いてみた。


缶の中から浮かび上がった映像が鮮明になり、何もない空間に先ほどの店員のアネモネが現れた。



「やあ。おねえさん。いや、名前は瑠璃だっけ?」


「!」


「開けてくれたんだ」


「な。なに? え? どうなってるの?」



辺りを見回しながら挙動不審に立ったり座ったりを繰り返すルリを見てアネモネは笑った。



「ねえ、落ち着いてよ。説明書は中だって言ったじゃない」


「え。説明って」


「ボクが説明書。じゃあ、説明始めるよ?」


「ちょ、ちょっと待って。あの……これは、夢なのかしら?」


「あはは。現実だよ。そうだよね、信じられないかもしれないけど、現実」



「ま。魔法?」


「そうだね……こっちの世界の感覚で言うなら魔法って奴かもね」



何をバカなことを言っているんだというようにアネモネはクスクスと笑った。



「さて、じゃあいい? よく聞いてね? まず、このシステムは、こことは別の次元。別の空間で作られたんだ。ぶっちゃけて言うとね、この缶詰はテスト品って事。だからテストをしてもらうべき人物を探していたってワケ」


「別次元? テスト……なんで、私が選ばれたの?」


「うーん。それは、言っただろ? ボクが選んだんじゃない、風が選んだんだよ」


「風って」


「この異空間を司るもの、とでも言っておこうかな。深く知る必要もないと思うし、話した所で理解に時間もかかるだろうし、ボクがちゃんと説明できるのかも曖昧だからね」


アネモネは少し肩をすくめて笑って見せた。


ぼんやりとした映像が、まるでそこにいるかのように実体化していた。

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