第8話

彼はそういいながらショップカードのような名刺を差し出した。


白いアネモネの花が描かれた小さな紙にアネモネと印字してある。



「白いアネモネの花言葉は希望ね」



「そう、よく知ってるね。やっぱり、おねえさんは選ばれたんだね」



「選ばれたって、誰に?」



「誰? アネモネにだよ。アネモネってウインドウフラワーって英語で言うんだよ。風。風がおねえさんをここに連れてきたんだよ」


「よく……わからないわ。やっぱり私少し飲みすぎたのかしら?」


アネモネはフフフと笑うと紙袋にオルゴールの箱を入れて差し出した。



「どの、缶がいい?」


「え。えっと」


ルリは促されるまま、ランダムに入っている籠の中から一つを取り出した。


「じゃ、じゃあコレで」


「ああ。コレ、うん。悪くないと思うよ」


缶詰を眺めると、オルゴールの入った袋の中に無理矢理のように押し込んだ。


「またお目にかかれる日を」


「ええ。そうね……どうもありがとう」



ルリは腑に落ちないような不思議な感覚のまま店を出た。


そして、どこをどう歩いたのか一瞬で自宅のドアの前に立っていた。


「……やっぱり酔ってるんだわ」


部屋に入るとバスタブに湯を張った。


温かい湯に浸かり、少し酔いのまわった頭を覚まそう。


そう考えながら麦茶を注いで有紀に電話をかけた。


先ほどの店の事などすっかり忘れて、今度見に行く約束をしている映画の話で盛り上がるとバスタブがいっぱいになったとセンサーが鳴った。


「お風呂に入って寝るわ」


そう言って、電話を切るとガラスのローテーブルの上に置いた紙袋をチラリと見て、バスルームに向かったのだった。

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