第3話

「大崎グループの令嬢は、まるでかぐや姫だ」


などと、無理難題を出して縁談を破談にするなどという噂も実しやかに学内に広まっているのは、それが原因だろうとわかっていたがどうにもできなかった。


 実際、見合いをしても無理難題どころか、会話も殆どなく、自分と結婚したいのではなく会社と結婚がしたいですと顔に書いてあるような男ばかりでウンザリしていたのだ。



「許嫁がいる人はお気楽なものね。もう、そんな意地悪いわないでよ」


「ふふふ。意地悪だったかしら?」


「意地悪だわ」



ルリはそういって、鞄の中から高級そうな台紙に挟み込まれた写真を広げてみせる。


 有紀は、地味なグレーのスーツを着てデップリとしたお腹を抱えるように座り、カメラ目線に微笑する寂し気な頭髪の男を見て首を振った。



「あら、まあ」


「年上の殿方が嫌いなワケじゃないのよ。でも40も離れたこの方と愛を育むのは無理だわ。会社の為に結婚なんてまっぴらごめんなのよ。でも100歩譲ってそれも運命と覚悟して、仕方ないとしたって、生涯添い遂げるには苦しいものがあるわ。有紀はこの殿方のお子を身ごもれて?」



「無理だわね……そ。ね……前回の方も、確か30とか離れていたわよね」


「そう、あまりにもしつこくて。お食事をご一緒したんだけど、お母上もご一緒されたのよ」


「えええ! ありえないわね。そんなんじゃ、初夜までついてくるわよ」


「初夜! やめてちょうだいよ、考えただけで寒気がするわ」



有紀はうーんと首を捻った。


「まぁ、このままだと時間の問題で強制的に婚約とかさせられそうね」


「来週、おばあ様のお誕生日パーティーと兼ねて創立記念のパーティーがあるでしょ」


「ええ、私もご招待いただいた毎年恒例のアレでしょ」


「そう。それでね、私。勢い余って『恋人がいる』って言ってしまって」


「え」


「パーティーにお誘いしなさいって……もう、絶望だわ」



有紀は呆れたという表情でルリを見た。

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