第9話
「いいですよ。デートのお誘いだと思っていいんですよね?」
「で。デート……まぁそうなるか……ほ、本来ならその、こういうことは」
「今は、職務中じゃないですよね?」
彼は少しだけ困ったようにくすっと笑った。
「これ、電話番号。そっちのは聞かないから……電話くれたら。嬉しいと思います」
何故か家の前で敬礼をして耳を赤く染めると来た道を戻る彼を見て心が躍った。
数日後、私は彼……アツシと食事に出かけた。
アツシは愛想はないが、時々見せる困ったような顔やシャボン玉が弾けたような笑顔を見るのが嬉しかった。
交番を覗きに行くと、他人のように接するギクシャクとした彼を見るのが可笑しくてかわいくて意地悪だと思いながらもふらりと立ち寄った。
あの出来事から丁度1年がたった頃、アツシは警部補に昇進した。
「だから……警察官の嫁なんて、色々心配もさせると思うし……ミクのご両親は本望じゃないと思うけど、結婚してほしいと思ってる」
「!」
声にならない声というのを、今までに出したことがあっただろうか? 私はアツシにハグをして嬉し泣きをした。
友達は出会いはロマンチックだし、公務員だったら将来安泰じゃない。
ミクの人生、順風満帆って感じねと笑った。
そう、順風満帆だ。
元彼の事なんて、忘れていた。
どこでどうしてるのかと思い出したことがあったが、風の噂で田舎に帰ったと言うのを聞いた時ほっとしたぐらいで、もう二度と会う事もないと思って過ごしていた。
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