第7話
カナブンがUターンをして私の肩にとまる。
「きゃー!」
「わあぁあ! あつし! なんかおねーちゃんの肩に!」
「いやぁあ! 助けて!」
彼は目を丸くしたあとクスクスと笑うと手を伸ばした。
そっとカナブンを摘まむと、木の葉の上に置いた。
「折角、自由なのに」
カナブンはジジジっと羽を広げて飛んでいった。
着替えを終えた彼は私を見て再び笑った。
「す、すみませんでした……2度までも」
「虫に好かれるタイプなんだな、アンタ」
「う、好かれたくないです」
「ははは!」
交番から少し離れたコンビニの前で恥ずかしさに顔が真っ赤になった。
「ちゃんと笑うじゃない」
思わず口に出てハッとすると、彼は煙草に火をつけてふっと頬を緩めた。
「……笑わないって噂だろ」
「あ! ご、ごめんなさい」
「いや。署でそういわれてるのは知ってるよ」
煙草を吸いながら優しげに微笑んだ彼は、さっきまでの制服の時の厳しい表情は一辺もなかった。
「あの……私、有城美紅といいます。ほんとうに、ありがとうございました」
「……いや、市民の安全を守るのが警察の役目ですから」
淡々とした口調はさっきと変わらなかったが、私服のせいなのか柔らかく見える。
「あ。これ……美味しいって評判のチョコレートなんです、あと、気持ち悪いかもしれませんけど料理教室でシナモンロールを沢山作ったんで、御裾分けです」
「料理教室? へえ」
「……医大に行けなかったので、早く嫁に行けと母がうるさいもので」
「医大? ああ。そういやアンタ、あそこの病院の」
「はい」
私はなんだか恥ずかしくなって俯いた。
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