第6話
困ったような表情を浮かべて腕時計を見ると彼は溜め息をついた。
「わ、私。おまちしてますね」
ペコペコと頭をさげて交番の横でぼんやりと公園を見ていた、
小学生くらいの男の子たちが三人走ってくると交番を覗いた。
「あつし!」
「あつしー! これ見て!」
その声に顔を向けると彼がめんどくさそうな顔をして言った。
「あのなぁ、あつしじゃねーだろ。水島さんとか呼べよ」
「えー! いーじゃん!」
「そうだよ、けちだなぁ」
「あつしのケチ!」
「ケチの使いかた間違ってるっての」
子供たちの賑やかな様子にクスッと笑った。
笑ったところを見たことがないと言っていたけれど、こんな風に優しい顔をするんだ。と、私の胸は騒ぎだした。
「で? なんだよ。もうあがりなんだけど?」
「これ、この虫! 新種かなぁ?」
「おれたち大発見じゃねぇ?」
彼は虫かごを覗いた。
「あー。残念だけどコイツは普通のカナブンだ」
「ええっ! カナブンかよ!」
「ああ、まあ。こんな季節にいるのは珍しいけどな、せっかちなのかな? 昨日今日って暖かいから出てきたんだろう」
子供たちはフーンと納得したように頷いた。
「気かすんだら逃がしてやれよ」
「うん」
子供の一人がパカッと蓋を開けた瞬間、ぶぶぶっとカナブンが飛び出した。
「カナブン、ばいばーい」
子供たちが手をふるのを微笑んで見ていた彼を見て、なんだか耳が熱くなってくるのを感じた。
「……」
ほぅっと息をついた。
「え」
「あ」
「きゃ! きゃああぁぁ!」
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