第2話
「だって、話聞いてくれないだろ」
男の目は狂っていた。
ナイフの刃先がカットソーの薄い布に当たった。
「痛」
先端が胸に当たり白い布に赤い花が咲いたように染みを広げる。
私はこんなところで死ぬのだろうか?
バカらしい!
工事はもう終わったの時間だからか人気のない現場は埃っぽくてザラザラとした床が不快でたまらなかった。
「ミクチャン、いい顔だよ」
ビリビリと布を裂く音がしてスカートにスリットが入る。
「きゃあああ!」
私が叫ぶが早いか元彼が大声をあげた。
「うわぁあああああ」
驚いて目を開くと、十徳ナイフを持った手を捻りあげるようにして掴まれていた。
「何してるんだ!」
「うわぁああ、離せ! 離せよ」
「ダメだね。離したら、危ないじゃん」
逆光で男の姿がよく見えなかった。
「大丈夫ですか?」
「だ。大丈夫……じゃないけど、大丈夫です」
「携帯もってるだろ! 早く警察に電話して」
「あ! はい」
そこからどうやって何がどうなったのか、あまり覚えていない。
「もう、大丈夫」
その言葉は魔法のように私の恐怖を打ち砕いた。
気が付いたら元彼が叫びながらパトカーに乗せられていくところだった。
「うわぁあああ」
その声を聞いて吐き気を起こしそうになって、婦人警官に支えられながら私もパトカーに乗った。
「わ、私を助けてくれた男の人は」
「あ。水島巡査? あら。どこいったのかしら?」
「巡査? って、あの人お巡りさんだったんですか?」
「そうよ、今日は非番だったから私服だったけど」
「……お巡りさん」
「コンビニの帰りに、どうも女の子の悲鳴が聞こえると思って戻ったら変な二人組がここから逃げて行ったのが見えたんですって。心当たりある?」
「あ……はい。顔は見えなかったと言うか……」
婦人警官はまるで友達の愚痴を聞くように静かに話を聞いてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます